第142話:付与魔法使いは急に襲われる

「キエエエエエエエエッ‼」


「……っ⁉︎」


 草陰に隠れていた人影が杖で襲いかかってきたのだった。


 容姿は十歳前後の少女といったところか。艶やかな緑色の髪を靡かせ、綺麗なフォームで俺の急所をピンポイントで狙ってきている。


 常に『周辺探知』で周りを警戒しているので存在には気がついていたが、里に住むエルフだろうと思い気にしていなかったので、思わず驚いてしまった。


「人間! 不審者! 我が村人には一切触れさせんぞ‼︎」


 なるほど。


 どうやら、俺たちは里のエルフに不審者だと誤解されてしまっていたらしい。確かに、事情を知らなければニーナとマリアを攫おうとしているように見えてしまうのかもしれない。


 まずは杖を避け、両手を上げながら危害を加える意思がないことをアピールした。


「俺たちは怪しい者じゃない! どうか話を聞いてくれないか?」


 このように言ってみたのだが——


「ワシが騙されると思ったら大間違いじゃ! 怪しい者は自分から怪しいとは言わぬからな!」


 そりゃあまあ、ごもっとも。


 とはいえ、本当に怪しくない場合はどうすればいいのやら。


 どうしようもできず困っていたところ、ニーナたちが必死に説明をしてくれた。


「ソフィアおばあちゃん、ちょっと待って! アルスさんたちは人間だけど怪しい者じゃないの! 話を聞いてください!」


 え、おばあちゃん⁉︎


 見た目からは十歳くらいの少女かと思っていたが、実はかなりの高齢だということか……?


 エルフはかなりの長寿であり、見た目では歳が分からないとは聞くが、まさかこの見た目で老エルフとは……驚かざるをえない。


 と、それはともかく。


 ニーナたちの説明で敵意が鎮まると思ったのも束の間だった。


「ニーナ、マリア……此奴らに言わされとるのじゃな。可哀想に。でも、安心するのじゃ。此奴らはワシが返り討ちにしてくれようぞ!」


 ソフィアは言いながら、素早く軽い身のこなしで再度俺に向かって杖を振り向けてきた。


 だから違うんだって⁉︎


 しかし話を聞き入れてもらえないのでは、もうどうしようもない。


 俺はため息を吐き、二人に声を掛ける。


「セリア、ユキナ」


「はい!」


「ええ」


 俺たちは阿吽の呼吸で散開し、緑髪の老エルフを囲む形になる。


「キエエエエエエエッ‼︎」


 強烈な一撃が飛んでくるが——


「なぬっ⁉︎ 指一本でワシの杖を受け止めた……じゃと⁉︎」


 俺が軽々と攻撃を吸収すると、ソフィアは驚愕の表情を浮かべたのだった。


 そして、硬直したソフィアにセリアとユキナが背後から近づき、拘束する形になる。


 やれやれ。これでようやく落ち着いて話ができるな……。

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