第139話:付与魔法使いは『熱変換』を使う

 ◇


 地図通りに歩みを進めること約一時間。エルフの里へ繋がる問題の道に到着した。


「なるほどな……」


 着いてすぐにニーナたちが言っていたことの意味が分かった。


 魔力災害の影響を受けたエリアと、受けていないエリアで明らかに道路の状態が違っていた。俺たちがこれまで通ってきた道には雑草が生えているのに対して、この先は荒廃しており砂漠化している。それだけじゃない。かなりの熱気が立ち込めているのか、陽炎により視界が歪んでいた。


 遠くを見渡しても、案の定魔物の姿は一匹もない。この環境では魔物も生きられないようだ。


 普通、地続きの大気の状況は緩やかに変化するものであり、境界線の向こうが急に変化するものではない。明らかに異様な光景だった。


 と、その時。


「わっ! あ、暑いです……!」


 境界線の向こうに手を伸ばしたセリアが、驚き手を引っ込めた。


「四十度超えてますよ! アルス、こんなところを通ったら死んでしまいます!」


「草木が枯れて日陰になりそうな場所もなさそうだし……いや、もはや関係ないわね」


「想像以上だな」


 とはいえ、俺の計画に支障はない。


 俺は、アイテムスロットから五つの魔石を取り出した。ちなみに、含有魔力はない。魔石は魔力が詰まった石を指すため、正確にはこれはただの石なのだが……まあ、細かいことはいいだろう。


「まずは、これを持っていてくれ。ポケットに入れておいてもいい」


 四つの魔石を四人にそれぞれ渡し、最後の一つは俺が持っておく。ちなみに、シルフィは俺の肩に腰掛けている。密着している状態なので必要ない。


「じゃあ、付与していくぞ」


 俺は、俺を含めた五人全員に付与魔法『熱変換』を掛けた。


「……? アルス、これはどのような効果があるのですか?」


 セリアがキョトンとした様子で尋ねてきた。


 おそらく、セリアは暑さに対抗するため冷却するような付与魔法を想像していたのだろう。それなのに何も変化を感じなかったため、気になったといったところか。


「もう一度向こうに行ってみれば分かる」


「……?」


 セリアが疑問符を浮かべながらも、再度境界線の向こう側に手を伸ばした。


 すると——


「えっ⁉︎ 全然暑くないです! どういうことですか⁉︎」


「本当ね。すごい……全然気温が違うはずなのに、差を感じないわ」


 さて、身をもって効果を実感してもらえたところで種明かしをしておこう。


「これは、魔道具への給力を応用した付与魔法なんだ」

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