第137話:付与魔法使いは次の村を目指す

「? どうかした?」


「ユキナは魔法書を探して旅してるんだったよな」


「ええ。まあ……そうだけど。少しくらいの遠回りは別に……」


 ユキナは、俺のエゴでエルフの里へ行くことに文句はないと伝えてくれようとしているのだろう。


 だが、俺が言いたいのはそうではない。


「そうじゃなくて。もしかすると、情報に一歩近づくかもって話」


「……どういうことかしら?」


「エルフは、人間とは比べ物にならないくらい長寿なんだ。これだけ長寿だと、人間とは比べ物にならない量の知識がある」


「あっ、エルフなら何か手がかりを知ってるかも……?」


「そういうことだ。それに、二人から聞いた話では、文献も今の人間社会に残っているものと比較して莫大な量らしい。決定的な手掛かりがあるかどうかはわからないけど、何か新しい発見はあるかもしれない」


 ……とは言っても、あまり期待しすぎるのも良くはないのだが。


 ともかく。


 ユキナにとっても意味がある移動だということを伝えたかった。


「そう聞くと、俄然楽しみになってきたかも」


「それなら良かった」


 どうやら、俺の想いはしっかり伝わったようだ。


「私はアルスと一緒ならどこに行っても楽しいですよ。ちょっとした旅行みたいで!」


 話を聞いていたのか、セリアが割り込んできた。


「そ、それは良かっ――」


「ああああっ‼ 私良いこよ思いつきました! エルフの里旅行を新婚旅行にするっていうのはどうですか⁉」


 ブーーーッ!


 急に何を言い出すんだ⁉


「えっとだな……」


 冗談なのか本気なのかやや困ってしまうな。


 こういう時って、どんな風に断るべきなんだろうか?


 などと思っていた時だった。


「新婚旅行っていうのは、私とアルスのって意味で合ってる?」


 は⁉


 なぜか、急にユキナまでもが爆弾を投下してきたのだった。


「そんなわけないじゃないですか⁉ えっ? はっ? まさかユキナもアルスを狙っているのですか……⁉ えっ? っていうかもしかしてアルスともうデキてる……?」


「そうかもね?」


「はあああああああああああ⁉」


 いや、俺もはあああああああああ⁉ だよ!


 初耳だよ!


「こ、これは大変な事態になりました……」


 あまりにも衝撃的だったのか、狼狽えてしまうセリア。


 俺も内心狼狽えていた。


「えっと……冗談……だよな?」


 ユキナだけに聞こえるよう耳打ちしてみる。


 しかし、当のユキナはというと――


「さあ。それはどうかしらね」


 などとはぐらかすのみだった。


 ま、まあ今までそんな素振り全然なかったし、普通に考えてセリアをからかっただけだよな?


 うん、そうだ。


 多分……。


 ――と、まあそれはともかく。


 エルフの里は、俺も個人的に一度は行ってみたい場所だった。


 ほとんどの人間が一生訪れることのない幻想の国であり、俺にとっては幼い時に父さんから何度も聞かされたある意味馴染み深い国でもある。


 それに加えて、ユキナと同様に俺も個人的にエルフたちの知識に期待している部分がある。


 魔王や魔族についての情報だ。


 ここ数百年ずっと人類は魔王についての調査をしているのにもかかわらず、まったく手がかりが掴めないでいる。


 もはや、人間が持つ文献に手がかりが存在するのかすらも疑わしい。


 エルフたちなら、何かを知っているかもしれない。


 そんなぼんやりとした期待があった。


「さて、次の村までちょっと早歩きで行こう」


 目的地までは約二十キロ。


 日が暮れる前には村に入りたいので、あまりゆっくりもしていられない。


「あっ! 待ってください~!」


「アルス足速すぎ……って、私たちも早くなってるんだけど⁉」


「そういう付与魔法をかけてあるんだ」


 こうして、俺たちは賑やかなパーティを楽しみつつ、次の村を目指して道中を駆け抜けたのだった。


————————————————————

これにて第3章完結です!!

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