第123話:フィーラたちは国王に刃を向ける

 そして。


「あは!」


 ザアアアアアアアアンッ‼


「うあああああああああああっ!」


 ――こうして、セレスは一瞬にして騎士団の統制を司る長の始末に成功したのだった。


「ど、どうかしましたか騎士団長……⁉」


 リヒトの叫びを聞きつけた騎士団の騎士たちが次々と部屋に集まってくる。


 このような事態になることは想定済みのため、特に焦ることはなかった。


 むしろ、騎士団員たちが集まってこなければ自ら足を運ぶつもりだったため、セレスにとっては手間が省けたともいえる。


 セレスは焦った演技を意識しつつ部屋を飛び出し、集まってきた騎士団員たちに声を掛けた。


「き、騎士団長が……!」


「な、何があったんです⁉」


「えっとですね……」


 言葉で注意を引き付けたところで、セレスは次々と騎士団員たちを斬りつける。


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 王宮内に次々と叫び声がこだました。


 叫びを聞きつけた騎士団員も、味方のはずの勇者が騎士団長を殺したなどとは想定できない。


 フィーラたちの作戦は、混乱している中でなるべく王宮内にいる騎士団の戦力を削ぐことにあったのだ。


 そして、その作戦は八割がた成功を収めた。


 セレスに与えられた任務はこれで達成。


 この任務をもとに、後はフィーラたちが仕上げをするのみとなった。


 ◇


 一方その頃、フィーラとマグエルは、セレスと別行動を取っていた。


 フィーラたちが急いで向かうは、王の間。


 ここは国王の執務室となっており、この時間はちょうど執務に取り組んでいることをフィーラたちは知っている。


 王の間の前を警備する騎士団員二人にフィーラとマグエルは焦った様子で声を掛ける。


「王宮で大変なことが起こっているわ! フロイス国王は⁉」


「陛下は無事か⁉」


 当然ながら演技なのだが、この時点で騎士団員が気付くことはなかった。


「なに⁉」


「何かあったのか⁉」


 その瞬間。


 王宮内をこだまする騎士団員たちの叫び声が次々とこだました。


 ――セレスの仕業である。


「こ、これはいったい……⁉」


「まさか、侵入者か⁉」


 王の間を守る騎士団員の間に動揺が走った。


 マグエルが、間髪入れずに説明する。


「セレスが突然暴走し始めたんだ! ここは陛下を守るのが第一。今は俺たちにも警備に当たらせてくれ!」


「なんと……! セレス様がなぜ⁉」


「わ、わかった……! 頼む! お二人が守ってくれるなら心強い!」


 と、油断する騎士団員だったが――


 ザクッ!

 ザクッ!


 マグエルは一瞬目を離した隙を狙って、騎士団員たちの背中に槍を突き刺したのだった。


「なぁ~んてな?」


 マグエルにより背中を刺された二人は叫び声を上げる間もなく死亡しており、守護兵がこの先にいる王に危険を知らせることはできなかった。


 こうして容易く王の間の警備を突破した二人は、すぐに王の間の中に侵入する。


 ドガアアアンッ!


 二人が勢いよく扉を開け、ズケズケと入っていく。


 フロイス国王は驚いた様子でフィーラとマグエルの二人を見つめた。


「な、なんじゃ⁉ 何事じゃ⁉」


 ただならぬ空気を感じ取ったフロイス国王が動揺を隠せないでいると、マグエルが槍を国王に向けた。


「勇者ごっこはもうおしまいだ」

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