第121話:フィーラたちは決起集会をする

 ――アルスたちが『カタリナ洞窟』へ出発した一時間後の王都。


 王宮内の勇者室にて。


「さて、始めるわよ」


 マグエル、セレスの前でフィーラが宣言した。


 二人はフィーラの言葉に頷き、それぞれ武器を手に取る。


 先日発足した勇者たちには、特別に王宮内に勇者用の部屋が与えられている。


 これは、各国連合で組織された旧勇者とは明確な違いだった。


 メイル王国は多額の出資をしていたとはいえ、建前的には連合組織である故にメイル王国から特別な計らいを受けることがなかった旧勇者とは対照的に、新勇者は王国所有の勇者として特別な扱いがなされている。


 王宮内での勇者室供与もその一つだった。


 通常、王宮内へ侵入するには厳重な警備がなされるが、勇者たちはフリーパス同然で出入りできる待遇を受けている。

 これは、メイル王国による勇者たちへの信頼と期待によるものだったが、当の勇者たちに期待に応えようという気はない。


 正確に言えば、ガリウスは新勇者の中で唯一忠誠心を持っていた。


 『自己顕示欲を満たすため』という理由が根底にあったとはいえ、勇者として活躍することで自己の評価を上げようという狙いは、思想の是非はともかく王国の利益に寄与する。


 だが、ガリウスとは対照的にフィーラたちは王国へ貢献する意思は毛頭なかった。


 むしろ、真逆。


「ようやくこの国が私のものになるのね。ああ……長かったわ」


 フィーラたちは、かねてより現政権の打倒による王国の支配を狙っていた。


 『レッド・デビルズ』のスリートップが身分を隠し、冒険者としての名声を地道に獲得していたのは、王国からの信頼を勝ち取るため。


 力のあるフィーラたち三名と『レッド・デビルズ』と言えども、王宮の制圧は簡単ではない。


 王宮内には常に王宮騎士団による厳重な警備がなされているため、正面から立ち向かってもそう簡単には制圧できない。


『王宮の中』に入り奇襲を仕掛けるのならば、制圧の難易度は極端に下がる。


 信頼を勝ち取った今となっては、こちらの方がより現実的にすらなっていた。

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