第111話:付与魔法使いは依頼を頼まれてしまう

 ◇


 翌日の朝。


 これから王都を出るため、宿の部屋で支度をしていた時だった。


 ピンポン。


 来客を伝える部屋のチャイムが鳴った。


「こんな朝っぱらから……どなたでしょうか?」


「クリスさんじゃないの? そういえば、王都を出る前にちゃんと報告しておかないと……」


 クリスにはマリアの件もそうだし、宿の紹介やガリウスと『レッド・デビルズ』の関係についての情報提供など、色々と世話になった。


 改めてお礼を伝えるのはもちろん、王都を出る前に一度会っておきたいと思う。


 だが、チャイムを押した人物がクリスではないことは、声で分かった。


「アルス、俺だ!」


 扉の向こうから聞こえるのは、俺が以前所属していた旧勇者パーティのリーダー、ナルドの声だった。


 ガチャ。


 不審な人物ではないことは明らかなので、俺は扉を開けた。


「どうした? っていうかどうしてここに泊ってること知ってるんだ?」


「ギルドで聞いたんだ。朝っぱらから尋ねて悪かったな……」


 ああ……確かに。


 そういえば、ギルドには宿泊場所を伝えていた。


 フィーラが戻った際に手紙を渡してくれとギルド職員に頼んだのだが、その際に宿泊している宿を聞かれた覚えがある。


「それで、どうしたんだ?」


 わざわざ俺たちが宿泊している宿を探してまで来たということは、何か急ぎで……あるいは、直接話さなければならない要件があったのだろう。


「実は、アルスたちにとある依頼を頼みたいんだ」


「依頼?」


「ああ、これがギルドから預かってきた依頼書なんだが」


 内ポケットから取り出した依頼書を俺に差し出すナルド。


 何がなにやらわからないが、ひとまず受け取る。


「カタリナ洞窟の調査?」


 依頼書には、そのような内容が書かれていた。


「実は新勇者のパーティリーダーになったガリウスがここで亡くなったらしくてな」


「そういえば、そんなこともあったな……」


 まだ一般公表はされていないが、俺はフィーラから聞いたため知っていた。


「アルスも知ってたのか! なら話は早い。アルスも分かっているとは思うが、この狩場のレベルでは、普通ガリウスが死ぬことはない」

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