第85話:付与魔法使いは興味を消す

 俺の相手になるガリウスは王の指示を受け、仕方なくといった感じで剣を取った。


 悪いな、巻き込んでしまって。


 でも、これでお前の評価が下がるようなことにはならないはずだ。


 俺は、ガイルの剣ではなく、以前にセリアが使っていた剣をアイテムスロットから取り出し、構えた。


「ほう……不思議な魔法を使うのじゃな」


 そうか、アイテムスロット……。


 余計なところでまた評価を上げてしまった。


 でも、肝心なのは戦闘の部分のはず。


 ここでしっかり負ければ、陛下も納得してくれるはずだ。


 わざとらしくならないよう、自然なふるまいを意識しよう。


 俺はあえて少し型を崩したモーションでガリウスに向かって剣を振る。


 シュン!


 俺の太刀筋を完全に見切ったガリウスは俺の攻撃をサッと避け、攻守が逆転。


 ガリウスは剣を振り下ろすと見せかけ――俺の鳩尾を狙って蹴り飛ばした。


 どこを狙われているか手に取るようにわかっているが、演技に徹する俺。


 しっかりと吹き飛ばされ、壁に激突した。


「うう……」


 受け身すら取らなかったのでかなり痛い。


 王宮を出るまでは付与魔法によるヒールを使えないのが辛いな……。


 手痛い代償になったが、これで十分だろう。


 俺は右腕を上げ、白旗を示した。


「……降参だ」


 チラッとフロイス国王を見ると、俺に興味を無くした様子。


「ふむ、こんなものじゃったか」


 これなら、勇者という罰ゲームから逃れられそうだ。


「どういうことだ? アルス・フォルレーゼ、どうしてお前がこんなに弱い⁉」


 しかし、どういうわけか決闘相手のガリウスは俺の弱さに驚いていた。


「どうしてって言われても、これが俺の実力なんだ」


「いや、そんなはずは……だって、いや……なんでもない」


 何か言いたげな様子だったが、ガリウスは出かかった言葉をひっこめた。


 優れた剣士は、ひとたび剣を交わせば正確に相手の実力を把握できる。


 俺の演技も、演技である以上は完璧ではないので、ガリウスにとってはどこか違和感を覚えるものになっていたのかもしれない。


「……くだらん。もう良い、アルスの辞退を認める」


「ありがとうございます」


 こうして、俺は望み通り新勇者パーティへの辞退に成功したのだった。


「ナルドよ。お主たちはアルスの付与魔法を借りて、ゲリラダンジョンを攻略したそうだな?」


「おっしゃる通りです」


「では、君たちの中から優秀な者を選抜して新勇者に選抜するとワシが言ったら、どうする?」


 俺への興味を失った国王は、ターゲットをナルドたちに変えたらしい。


 期待の眼差しを向けられたナルドだったが、静かに首を振った。


「俺としても残念ですが、辞退させていただきます」


「ふむ? どうしてじゃ?」


「俺たちは、一人一人は強くありません。洗練された連携でどうにか格上の魔物とも渡り合えているだけです。別のパーティでは誰も一流の活躍はできません。陛下もそのように考えて、我々から選抜することはなかったのでは?」


「む……まあ、そうじゃな。参考までに聞いただけじゃ。忘れてくれ」


 フロイス国王は四人の新勇者をチラっと見た後、すぐに目を逸らした。


 おそらく、本音としてはもう一人か二人くらい加えたかったのだろう。


 ……悪いな。


 俺は胸中で国王に懺悔しつつ、謁見の間を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る