第81話:付与魔法使いは前言撤回する
ファミリーネームの部分――スカーレット。
俺は、思わず聞き返してしまった。
「聞き取りづらかったでしょうか……? マリア・スカーレットです」
「もしかしてだが……お父さんはハリー・スカーレットだったり……?」
「ど、どうしてパパの名前を⁉」
ニーナは声が裏返りそうなほど驚いていた。
こんなニーナの表情は、出会ってから初めてだ。
……なんてことだ。
スカーレットという名前からピンと来たが、まさかあの人の娘だったとは……。
「父をご存じなのですか?」
「直接会ったことはないんだが、聞いたことがる」
俺は、ニーナとマリアの父の名前を知った経緯を話すことにした。
「俺の父さんは冒険者だったんだが、ある時、魔物との戦いで大怪我を負ったらしいんだ。命からがら逃げられたは良いものの、力尽きて倒れた。気を失って、目が覚めたらエルフの里でエルフたちに介抱されていたらしい。俺は、何度も父さんから世話になったエルフの名前を聞いてたんだ」
まさか、そのエルフが、ニーナたちの父だとは……なんの因果なんだか。
「すまない、前言撤回させてくれ。意地でも絶対にマリアも一緒にエルフの里に帰す。セリア、ユキナ。俺の勝手な都合で悪いんだが、協力してくれ」
「もちろんです!」
「何から始めればいいかしら?」
まだどうするか具体的には何も決まっていない。
だが、その気になりさえすればどうにかする方法なんていくらでもある。
「王都は広いと言っても、しらみつぶしで探せば見つけられるはずだ。なんとかして見つけて、その後は買い取れないか交渉を持ちかける。多少の吹っ掛けなら払えばいいし、法外な金額を吹っ掛けるようなら、力づくで奪ってやるよ」
他人の持ち物だからと言って、遠慮することはない。
奴隷を持つような不届き者から、奴隷を解放することの何が悪い?
そう、遠慮することはないのだ。
「ア、アルス……さっきまでと言ってることが違いすぎて……」
「すごく頼りになるんだけど、すごい変化ね……」
「事情が変わったからな。使える手段はなんでも使うよ」
前提が違えば、結論も変わるのは当然なのだ。
「あっ、でもその前に王宮で謁見があったな……」
この状況だと、時間の無駄に感じるが、さすがに国王との約束をブッチするわけにはいかない。
「じゃあ、私たちだけでも先に探しておきます!」
「そうね。どうせ私たちは同席できないし」
「悪いな。……それで頼む」
正直、セリアとユキナのこの提案はめちゃくちゃありがたい。
「そういえば、シルフィはどうする? ママたちと一緒にいるか?」
「う~ん、パパと王宮行きたい」
「そうか。精霊界に隠れててもらうことになるけどいいか?」
「うん!」
謁見の間に連れていくわけにはいかないので、これは仕方がない。
「よし、じゃあ行ってくる」
俺は二人と一旦分かれて、王宮に向かったのだった。
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