第82話:付与魔法使いはお願いする
王との謁見を控えた三十分前。
アルスの暗殺失敗を知らされたガリウスは驚きを超えて唖然とするしかなかった。
(失敗した……だと?)
弓での狙撃に失敗したとしても、リカバリーする手段も用意していたし、何より一人も帰還できなかったことに驚きを隠せなかった。
依頼人の名前は絶対に割れないよう、暗殺者たちには呪印魔法をかけている。
そのためアルスに計画がバレるまでには至っていないが、もはや問題はそのような懸念を遥かに超越した次元にある。
(それなりの手練れなことはわかっていたが、想定以上だったのか……?)
ガリウスは、アルスの実力を過小評価していた。
聞いていた話では、付与魔術師というユニークジョブではあるものの、付与魔法を味方と自分に付与する以外には何もできず、ただパーティに寄生して経験値を吸い取るだけの存在だったはず。
難しいと言われるゲリラダンジョンを数人で攻略したという事実から、耳に入っていた情報よりもある程度強いとまで想定したのに、まるで歯が叩かなかったということになる。
(この作戦、俺でも死ぬレベルだぞ?)
今回、アルスを襲った作戦は、ガリウスが自分を対象にしたとしても十分殺せる程度の綿密な計画を立てたつもりだった。
それを難なく突破したということは、考えたくもない……。
(まさか、本当の実力は俺より上ってことか? そんなバカな! 付与魔術師だろ⁉)
理屈では、強さを見積もれたとしても、感覚的にどうしても信じられない。
(殺せなかったもんは仕方ねえ。直接会ってからもう一度考えるか……)
アルス暗殺にしては継続するとしても、ガリウスは一旦、アルスという不気味な存在について、この目で見て実力を推し量ることに決めた。
◇
謁見の間。
まず初めに、王座に座るフロイス国王から旧勇者に労いの言葉がかけられた。
「勇者たちよ、これまで大変ご苦労だった」
事前に解散の件については聞かされていたが、セレモニーとして正式に解散が決定すると、何か感じることがあるのか、ナルドは瞳に少し涙を浮かべていた。
「そして、新たに発足する我がメイル王国勇者よ、これから頼むぞ」
国王のお言葉を受けて、新勇者となる俺以外の四人は恭しく礼をした。
「む?」
フロイス国王は、一人だけ礼をしない俺が気になったようだ。
と言っても、機嫌を悪くした風ではない。
「アルスよ、緊張しているのか?」
「いえ。今日は勇者指名の件で特別なお話があって参りました」
「ほう?」
「単刀直入に言います。俺は、勇者にはなりません。指名いただいた件は名誉なことだと感じていますが、俺には荷が重いです。辞退させてください」
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