第80話:付与魔法使いは考え直す
「乗りかかった船とは言っても……これはさすがにどうなのかしら」
「アルス、これってどうにかならないでしょうか……?」
問題は、マリアの所有権が誰か人間の手にあるということだ。
奴隷はモノという扱いになっている。
つまり、取り戻すには持ち主を探したうえで、譲ってもらわなくちゃいけない。
あるいは、強奪するか、盗むか……だが、これは非現実的だろう。
持ち主を探し出すだけでも至難の業だし、見つけ出したとして、売ってもらうにはいくら吹っ掛けられるかわからない。
「気の毒だが、さすがに無理だ」
俺は、そう答えるしかなかった。
「そう……ですよね。なので、私一人でも頑張ります。あの……無理なお願いなのですが」
ニーナは俺をジッと見つめて、頭を下げてきた。
「薬をママに届けていただけないでしょうか。それと、私が捕まってしまったことも……」
まるで、もう自身が無事にエルフの里に帰れないことを悟ったような口ぶりだった。
無謀だと自分でわかりつつも、妹のマリアを諦めきれないらしい。
「気持ちは理解できるが、そんなことできるわけがないだろ。第一、親御さんにはなんて説明するんだ? ニーナを助けたのにみすみす逃しましたって?」
「……」
「すまない、でもそういうことなんだ」
今、ニーナには究極の二択が突き付けられている。
妹を見捨てて目的の薬を持って里に帰還するか、薬と自身の帰還を諦めて、僅かな可能性に全てを賭けるか。
おそらく、俺たちと変わらない歳の女の子にはあまりに残酷な選択肢だった。
「いや……違うな」
もし、俺がニーナの立場なら、どうして欲しいと思うだろうか。
そう考えると、いきなり究極の二択である必要はない気がしてくる。
「とりあえず、探すだけ探してみよう。それで、もし連れ帰れないことがわかった時は、ニーナだけでもエルフの里に帰す。無理やりにでもだ」
「そ、それです……アルス!」
「私も、それしかない気がしてたわ」
ニーナにとって、マリアを探さずして見捨てる選択はできない。
そして、俺たちにとってもせっかく助け出したニーナを見捨てるようなことはできない。
苦し紛れの折衷案だが、今はこれがベストだと思う。
「あ、ありがとうございます……!」
ニーナは少し涙ぐんでいるようだった。
「ニーナ、マリアのフルネームを教えてくれるか?」
「は、はい! マリア・スカーレットです」
「え?」
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