第79話:付与魔法は嫌な予感を抱く

「ひとまず、俺たちがニーナの所有者ってことになってる間は安全だ。それで、王都を出る時期なんだが……事情があっていつとは明言できないんだ。悪いな」


 今すぐにでもエルフの里に帰してやりたい気持ちはありつつ、そうとはいかない事情もある。


 俺はフロイス国王から指名された勇者パーティの話を断るつもりなので、この件で揉めると、滞在期間が長くなる可能性があると考えている。


「い、いえ! 檻から出していただいて本当にありがたく思っています。でも……私、まだやらなきゃいけないことがあって、王都に残るつもりです」


「な、何言ってるんですか⁉ また捕まっちゃいますよ⁉」


 間髪入れずにツッコミを入れるセリア。


「落ち着け、セリア」


「で、でも……」


 エルフの奴隷化が認められている王都の中に一人でいれば、せっかく救ったのにまた悪い人間に捕まってしまう恐れがある。


 セリアが心配するのは当然なのだが、俺は他に気になることがあった。


「そもそも、よほどの理由がなきゃリスクを冒してエルフが王都に来るわけがない。そうだな?」


「は、はい……」


「理由を聞いてもいいか?」


「……はい。そもそも、私が王都に来たのは薬を買うためなんです。えっと……アルスさんたちは『魔風症』ってご存じですか?」


 『魔風症』……症例が少なく、あまり有名な病気ではない。


 確か、抵抗力が弱まっている際に、魔物の強い魔力を浴びることで発症するんだったかな。


「発症すると、昏睡状態になって起きられなくなる病……だったか?」


「はい、それです。実は、ママが魔風症に罹ってしまって……エルフの里では薬がないのですが、王都ならあると耳にして……」


「なるほどな。そういうことだったか」


 確かに、人類は既に魔風症の治療薬の開発に成功している。


 王都なら確実に手に入るはずだ。


「でも、それなら薬を買ってから王都を出るだけでいいんですよね?」


 セリアの質問を受けて、どういうわけか、ニーナは暗い表情を浮かべた。


「そうなのですが、実は王都には妹のマリアと一緒に来ていたのです」


 なんだか、雲行きが怪しい。


 嫌な予感がしてきた。


「もしかしてだが……」


「お察しの通りです。マリアも人間に捕まってしまって、連れ去られてしまいました。今どこにいるのかすらもわかりませんが、私はマリアも連れて里に帰りたいのです……」


「なるほど。これは厄介だな……」


 つまり、ニーナのやるべきことというのは、既に奴隷にされてしまったマリアを奪還した上で、魔風症の薬をエルフの里に持ち帰ることだ。

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