第78話:付与魔法使いは解放する
「さあ、出ておいで」
檻の中から出てこようとしないニーナに、優しく手を伸ばす。
「ひっ……」
しかし、ニーナはガタガタと震えるばかりで檻から出ようとしない。
「アルスを怖がっているのでしょうか」
「まあ、目の前であの強さを見せられればね……」
セリアとユキナが言う通り、俺を怖がっているように見える。
奴隷が捕らえられる際や、捕らえられた後には暴力を受けることがよくある。
もしかすると、ニーナもそうした経験から暴力を恐れているのかもしれない。
「セリア、ユキナ、シルフィ。ニーナを頼めるか?」
檻の鍵を受け取ったのは俺だが、この先のニーナを逃がす部分では、俺じゃなくてもできる。
女の子の方が安心できる側面もあるだろうし、三人に任せた方が良さそうだ。
三人が首肯したことを確認して、俺は檻から少し距離を取って見守ることにした。
「ニーナちゃん、もう大丈夫ですよ。私たちは酷いことしませんから!」
そう言いながら、セリアが檻の中に手を伸ばす。
「ほんとですか……? 何もしない……?」
か細い声で、セリアの言葉に答えるニーナ。
「もちろんです。私たちはニーナを助けに来たのです!」
「今は信じられないかもしれないけど、本当よ。もう心配することは何もないわ」
セリアとユキナが淀みなく答えると、ニーナの表情が少し柔らかくなった気がする。
「さあ、外に出ましょう」
ニーナは恐る恐るセリアの手を握る。
そして、ゆっくりと檻の中から出てきたのだった。
◇
「本当にありがとうございました。私、皆さんを誤解していました」
店の外に出て、ニーナに害を加えるつもりがないことを説明して十数分。
最初は俺たちを警戒してビクビクしていたニーナだったが、どうにか信用してもらえたようだ。
「でも、どうして助けてくれたのですか……?」
ニーナが疑問に思うのも無理はない。
普通、奴隷を手に入れるとすれば理由はろくでもない理由だからだ。
「言ってしまえば、偶然だよ。俺たちは、今日ちょうど王都に来て、たまたまあの店に立ち寄った。そこでニーナを見つけて、同情から助けてあげたいと思ったんだ」
少しでも歯車が嚙み合わなければ、この子と出会うことはなかっただろう。
ニーナの視点で言えば、運が良かったということになる。
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