第65話:付与魔法使いは捕まえる

 驚いているところ悪いが、第一の優先順位であるナルドの治療を終えた今、俺は次に頭を切り替えている。


 すなわち、犯人の確保だ。


 まず、遠くから矢を放った弓術師を探す。


「……どういうことだ?」


 『周辺探知』を使って影を探すが……見えない。


 そもそも、弓で狙える程度の距離には魔力を伸ばし、常に警戒していた。


 それなのに俺がまったく気づかなかった。


 魔道具か何かで自動発射したのか? いや、そうだとしたら俺を目掛けてピンポイントな場所に飛ばしてきたことの説明ができない。


 それに、魔道具によるものだとすれば、魔道具が発する魔力を捕捉できるはずだ。


 つまり、それ以外の方法……いや、落ち着け俺。


 犯人を見つけるだけなら、綺麗でテクニカルな方法に拘る必要はない。


「確か、矢が飛んできた方法は……」


 ナルドが討たれた方向と勢いから、おおよその発射位置を推測。


 そして、付与魔法『視力強化』を使用。


 この魔法を使えば、数キロ先までくっきり見えるようになる。


「……あいつか」


 五百メートルほど離れた岩の上。


 弓を持ってこちらを見る黒ずくめの男を確認できた。


 双眼鏡でこちらを覗いていたようだが、俺と目が合った瞬間にかなり慌てていたようなので一目でわかった。


 あいつで間違いないだろう。


 俺は、黒装束の男目掛けて弱めの『火球』を放つ。


 死なれたら事情を聞けないため、行動不能にする程度でいいのだ。


 ドオオオオン!


「ど、どうしたんだ⁉ 急に……」


 ナルドが俺を二度見した。


 説明なしで魔法を放ったため驚かせてしまったようだ。


「ナルドに矢を刺した犯人を見つけたんだ。よし、これで……ん⁉」


 ようやく犯人を仕留め、ホッとしたのも束の間だった。


 一瞬、ガサっと草と衣服が擦れるような音が聞こえてきた。


 隣のナルドとレオンには聞こえないレベルの僅かな音だったが、俺は聞き逃さなかった。


 さっきの弓術師と同様に、『魔力探知』では発見できなかった。


 奴の仲間の可能性が考えられるため、こっちも確実に捕獲しておきたい。


 俺は近くにあった石を拾い、五感を研ぎ澄ませる。


「そこだな!」

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