第63話:付与魔法使いは交代する

 ◇


 その頃、アルスたち一行を王都の方面から監視していた三人の集団がいた。


 彼らは、ガリウスからアルス暗殺を請け負った暗殺者である。


 全員が夜闇に隠れるかのように黒ずくめの衣装を纏っており、その見た目だけでもどこか不気味さが感じられる。


「まさか、本当に魔の森を抜けてくるとはな……」


「依頼主が作戦を提案してきたときはさすがに驚いたが、相当な手練れのようだな」


「久々に興奮するねえ~!」


 彼らが依頼を受けたのは、あくまでもアルスの暗殺。


 暗殺のプロとして、依頼されていない相手を殺すのは言語道断だ。


 それゆえ、アルス一人を確実に殺せる状況の訪れをしばらく待っていた。


「夜の見張りは三人ずつ。ターゲットは……数時間後のようだな」


「狙うのは三人になった時か」


「そうだね」


 三人になれば、一気に狙いやすくなる。


 さらに夜の見張りは眠気もあり、気を抜くタイミングがあることを経験則的に暗殺者たちは知っていた。


「弓職のお前が弓で狙撃してくれ。念のため俺たち二人も近づいておく。失敗した時は任せろ」


 リーダー格の暗殺者が指示を出し、他の二人が頷く。


 そして、時が訪れるのを静かに待つのだった。


 ◇


「アルス、交代だぜ」


「……ん、ああ……わかった……」


 食事の後、見張りの番が回ってくるまで先に俺たち三人は眠っていた。


 交代を知らせに来てくれたガレスを労ってから、見張りに向かう。


 なお、精霊のシルフィも夜は眠るらしく、小さな寝袋の中にくるまっている。


「ア、アルスさん何してるんですか⁉」


 見張り中は警戒以外に特にすることがないので、俺はとあるルーティンを心がけているのだが、俺の勇者パーティ時代を知らないレオンには奇妙に映ったようだ。


「ん? 筋トレ」


「なんで⁉ ていうか寝起きなのに元気ですね⁉」


「アルスはいつもこうなんだ。これで本当に強くなったんだからバカにできねえけどな」


 俺の代わりにナルドが説明してくれた。


「そ、そうなんですか……アルスさんは本当に凄いですね」


「慣れれば平気だよ。レオンも一緒にやるか?」


「ぼ、僕は遠慮しときますよ……。疲れて動けなくなったら迷惑かけちゃいますし」


「そうか……」


 速攻で断られたことを残念に思いつつ、一人で筋トレを続ける。


 地味な努力だが、毎日続けることで肉体の強化はもちろん、魔力の総量も増えるし頭の回転が速くなる気がする。


 あと、精神的に落ち着く作用がある気もする。


 疲れる以外には特にデメリットはないし、疲れに関しても毎日続ければ慣れて逆に心地良い感じになるのだが……こればかりは経験しないとわからないのかもしれない。


「よし、これで終わり!」


 一通りのメニューを終えた俺は、その場を立った。


「ちょっと向こう側も見てくる」


 一か所に止まったままの見張りでも十分だが、俺は念には念を入れて目視でも警戒を怠らないようにしている。


 俺たち三人の他は眠っているので、万が一にも何かあるわけにはいかないのだ。


「ア、アルス!」


 そんな俺に、なぜかナルドが焦った様子で声を掛けてきた。

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