第62話:付与魔法使いは夜に備える
◇
その後はたまに出てくる魔物を倒すのみで、大きな苦労なく魔の森を抜けられた。
出てきたのは、強い夕日が刺すだだっ広い平原。
この先に見える道なりに進めば、王都に着く。
ただし、まだ距離的には五十キロ以上あるので、今日はこの辺で一休みして明日の朝から王都を目指すべきだろう。
「まさか、一人も怪我せず魔の森を抜けられるなんて……!」
回復術師のクレイナが安堵すると同時に、驚嘆の声を上げていた。
確かに、俺たちがいなければかなり苦しい戦いになっていたことは想像できる。
俺が的確に魔物の位置を把握し、万全な状態でセリアとユキナによる理不尽と言うべき攻撃があったから何事もなく抜けられたのだ。
これは、決して当たり前のことではない。
回復術師のクレイナは、俺が抜けた後の勇者パーティを経験している。
立場上、最も差を感じているからこそこの言葉が出てきたのだろう。
「本当にアルスたちが来てくれて良かったわ。あらためてありがとう……って言わせて」
「まあ、建前上は依頼ってことになってるんだけど……どういたしまして」
俺はパーティを代表してそう答えたのだった。
「キャンプを作るぞ」
ナルドの言葉で、俺たちは今夜の寝場所の確保を始めた。
野営は、すぐ近くに魔物が潜んでいるため、襲われないよう対策する必要がある。
回復術師のクレイナと、双剣士のグレイスが薪をくべて焚火の準備を始めた。
同時に、魔法師のカイルが魔除けの白魔石を三か所に置いている。
白魔石は、自然に取れる魔石を加工した魔道具である。
魔物が嫌がるとされる聖属性の魔力が設置された三点を結ぶ内側に充満するため、魔物が近づいて来づらくなる。
とはいえ限界もある。
例えばさっきまでいた魔の森の中の魔物のように強い魔物相手には効きづらいし、稀に白魔石が発する魔力への感受性が低い魔物もいる。
そのため、これはあくまでも補助的なものだ。
焚火も魔物は火を避けるため用意しているが、白魔石と同様に完璧ではない。
それに、敵は魔物とは限らない。
寝込みを狙う盗賊などにも注意しておく必要がある。
「見張りの順番を決めよう」
ナルドの一声で、俺と魔法師のカイル、弓術師のノア、戦士のガレス、付与魔法師のレオンの五人が集まる。
セリア、ユキナ、回復術師のクレイナ、双剣士のグレイスの四人は食事の準備に移っていた。
どうして男たち五人だけ集まったかと言えば、基本的に夜の見張りは、男が担当することになっているからだ。
理由は不明だが、そういう文化らしい。
女性だけのパーティや、男性が少ないパーティではその限りではないが。
「今夜は前半をカイルとノア、ガレスの三人に頼みたい。後半は俺とレオンとアルスが見張りをしよう……と思うが、問題ないな?」
反対意見が出なかったため、すぐに話はまとまった。
パーティのバランス的にもこれが無難だろう。
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