第58話:付与魔法使いは話を中断する
◇
「セリアとユキナは初めてここを通るんだったな?」
「はい!」
「ええ」
「じゃあ、説明しておかないとな」
森の中では視界が狭くなるため、常に警戒を怠ってはいけないのは常識。
その上で、『ベルガルム森林』ではいっそうの注意が必要となる。
「この森では、突然魔物が飛び出してくることがあるんだが――」
「きゃっ!」
「ちょ、どういうこと⁉」
話の途中で、ちょうど魔物が乱入してきた。
死角である頭上から突然降ってくる形で現れたのは、ケルベロスだった。
三つの頭を持つ外見が特徴の魔物であり、ウルフのような獰猛な爪と牙を持っている。
しっかり対策を立ててから戦ってもなかなか手強い魔物なのだが、それが急に現れるとなると、圧倒的な力か、あるいは的確な判断能力が求められる。
セリアとユキナは十分な力があるので、一匹なら特に心配する必要はないだろう。
「やあっ!」
「良い度胸ね!」
セリアが剣でケルベロスの頭を一頭斬り落としたかと思えば、次の瞬間にはユキナが魔法で二頭同時に吹き飛ばす。
すべての頭を失ったケルベロスの心臓をセリアが剣で一突き。
これにて、危機は去った。
「ふう……びっくりしました」
セリアは、汗を拭ってホッとした表情を浮かべていた。
「それで、さっきの話の続きって?」
状況が落ち着いたところで、ユキナが先ほどの話の続きを求めてきた。
「ああ。ここでは急に魔物が足音なく近づいてくるから、五感以外での注意も必要だってことを言っておきたかったんだ。まあ、もう身をもって理解したと思うが……」
『ベルガルム森林』は、高濃度の魔力と、草木により音が吸収される。
そのためこのように直前まで魔物の存在に気付かないということが起こってしまうのだ。
これが『魔の森』と呼ばれる所以である。
「五感以外で注意ってどうすればいいのですか?」
セリアが俺の説明を受けて質問を投げてきた。
「簡単にできることとしては、足跡を見るとか、草が剥げた場所がないか確認するとか、そういう細かい場所をしっかり把握するって感じだな」
「なるほど……難しいです。アルスは凄いです……」
「普段から意識してないと、今日いきなりできることでもないわよね」
「まあ、できるに越したことはないんだが……俺の場合はちょっとした工夫で楽にしてるよ」
「工夫ですか?」
「ああ。『周辺探知』って言うんだが……」
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