第57話:付与魔法使いは出発する
翌日の朝九時。
俺たち『インフィニティ』は、勇者パーティから護衛依頼を受ける形で村を出発した。
「うふふ、パパの頭にお花!」
目新しい景色にシルフィも上機嫌である。
なお、既にナルドたちにはシルフィが精霊であることについては話してある。
かなり驚いていたが、『アルスならあり得る』などとなぜかすぐに納得していた。
どういうことだろうか……?
さて、早速昨日の今日で村を出たわけだが、さすがに今日中には着かない。
そのため、どこかで野営をする必要がある。到着は明日になりそうだ。
昨日のうちにギルドから王都に伝書鳩を飛ばしてもらい、フロイス国王には明日に到着する予定である旨を伝えている。
王都に着いたらスムーズに本題に入れるだろう。
「そういえば、勇者パーティが解散した後はどうするんだ?」
魔の森までの移動中。
少し気になっていたことをナルドに尋ねた。
「ん、これまでと変わらずこのメンツでやるつもりだよ。幸いなのか不幸なのかわかんねーけど、新勇者として招集されたメンバーはいないしな」
「冒険者に転職するってことか?」
「ああ。勇者じゃなくなっても、俺たちがやることは変わらねえ」
「……そうだったな」
勇者パーティの勇者は、全員が魔王を倒すという意志を持っている。
というのも、金や権力が欲しいのなら、冒険者になるなり宮廷騎士団に入る方が楽で確実だからだ。
魔王討伐を目指す『勇者』に固執する理由を各々持っている。
勇者じゃなくなったとしても、そう簡単に諦められるものではない。
「そういや、アルスには話してなかったっけか。俺が勇者を目指した理由」
「ああ、聞いたことなかったな」
俺の反応を見て、ハッとした表情になるナルド。
「そうか……口に出すのは久しぶりか。権力欲に溺れて、しばらく目的すら見失ってたらしい。まったく、俺としたことが……」
そのように呟いた後、ナルドは隣の俺にだけ聞こえる声で話し始めた。
「俺には、七歳上の姉がいたんだ。優しくて強い冒険者だった」
過去形……。
なんとなく、これだけで察してしまった。
「聞いた話では、冒険中に魔王軍の幹部に殺されちまったらしい。本当かどうか今じゃもうわかんねーけど、当時は『じゃあ、そいつをぶっ殺してやるよ』って思ってな。魔王軍の幹部ってことは、魔王を追ってりゃあいつか戦う機会が来ると思ったんだ」
「……なるほどな」
「晴れて勇者になり、いつの間にかリーダーにまでなったが、ここ十年はあいつらまったく動きすらも見せねえ。手がかりゼロだ。……けど、いつか尻尾を掴んでこの手で仇を取ってやる。よくよく考えりゃ、同じ志の仲間さえいりゃあ、勇者なんて身分は元々いらなかったんだ」
俺との目的の違いはあるが、ナルドも目指す先は同じだったようだ。
確かに、昔のナルドは今のような感じだった気がする。
勇者パーティ解散という状況の変化が彼を再び目覚めさせたのだろうか。
ともかく、前向きに捉えられているのは良かった。
「そんなこと話してる間に、着いたぜ。魔の森」
ここからは、道が二つに分かれている。
どちらも、王都へ繋がる道になっているが、一方は商人や一般的な冒険者が頻繁に使う比較的安全なルート。
そして、もう一方の森の中を直通する最短ルートが、これから俺たちが使う道だ。
濃い魔力に溢れ、草木がうっそうと茂る魔の森。
道があるとは言っても、魔の森の入口までしか繋がっていない。
当然道と呼べるような道はないので、移動するだけでも大変だ。
「行こう」
俺が先陣を切る形で森の中に入った。
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