第56話:付与魔法使いは依頼を受ける
「依頼?」
「俺たちは、ゲリラダンジョンの件で王都へ報告に行かなくちゃいけない。アルスもちょうど王都へ向かうだろう。ついでって言うのもアレだが……護衛を頼みたいんだ」
「王都くらい俺がいなくても……」
「アルスが護衛をしてくれるなら、魔の森を抜けられる。アルスは俺たちだけで、魔の森を抜けられると思うか?」
「……ちょっと厳しいな」
『魔の森』――正式には『ベルガルム森林』と呼ばれる森は、俺がまだ勇者だったときに、ここベルガルム村に来た時のルートだ。
ここを通れば最短距離で到着する反面、かなり敵が強く勇者パーティと言えども俺がいなければ不測の事態に対応できない可能性がある。
とはいえ、王都への道はこのルートだけではない。
数日の遠回りにはなるが、安全に王都まで移動する道を使えば良いだけの話。
「と言っても、他の道を使えば……」
「頼む! この通りだ! 俺たちは最短で王都に行きたいんだ!」
ナルドは、両手を合わせてお願いしてくる。
会話の流れ的に退職金を渡したい思惑に名目をつけているのは明らかである。
護衛をするとなると、少なくとも二日間は一緒に過ごすことになる。
確かに追放はされたが、他に何か取り返しのつかない被害があったわけではなかった。
俺としては、この雰囲気ならもう特に気まずいことはないような気がしてくる。
どうせ王都へは移動するわけだし、この名目なら、無碍にするのも違うような気がする……と心が動きそうになったその時。
「アルスさえ良ければですけど、受けてもいいんじゃないですか?」
「そうよね。百万ジュエルって結構大きいし」
「まあ、そうだな」
セリアとユキナの意見に背中を押される形で、俺はナルドの依頼を受けることに決めた。
「本当か⁉ 良かった! よろしく頼むぜ!」
俺の手を握り、笑顔を咲かせるナルド。
「アルスとの最後の旅、良い形で終わりたいね」
「アルスがいてくれるなら、魔の森も安心できるわ」
「そうこなくっちゃな!」
もともと、俺が退職金の提案を断るのは織り込み済みだったらしい。
まったく、してやられたな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます