第55話:付与魔法使いは依頼される
「お前ら……」
一度は裏切られたとはいえ、ずっと寝食を共にしてきた仲間。
許す、許さないは別としても、恥を忍んで本音を曝け出し、頭を下げてきたことに何も感じないわけがなかった。
俺は、ずっと自分がパーティに貢献してきたことを認めてもらいたかったのかもしれない。
俺は、勇者パーティを両親の敵討ちのため魔王を倒すため利用しているだけのつもりだった。
だから、自分から成果をアピールするようなことはしなかった。
パーティを追い出される直前も、どこか冷めていたから弁解しなかったのかもしれない。
どう言葉を返すか悩んでいたところ、新加入の付与魔法師、レオンが俺の前に出てきた。
「アルスさん、僕は同じ付与魔法の使い手としてあなたを尊敬しています。話を聞いているだけでも凄い方だと思っていました。本音を言うと目の前で見るまで疑ってもいましたが……」
「ま、まあ……俺の付与魔法は普通と違うからな」
「実は、ナルドさんたちがアルスさんに何かお詫びをしたいと言っていて……」
「お詫び?」
「はい。それで、どうお詫びするか悩んでいたので僕から提案したんです。――ナルドさん」
レオンに名前を呼ばれたナルドが俺の前に出てきた。
「今更、許してくれなんて言えねえ。だが、せめてこれまでの労を労わせてくれ。アルス、退職金を受け取ってくれないか?」
「退職金?」
名前は聞いたことがある。
一部の冒険者のパーティでは、長年パーティに貢献した冒険者に金銭の形で特別な報酬を出す決まりがあるそうだ。
あまり一般的ではないが、目に見える形で感謝を示す方法として存在する。
相場は百万ジュエル。
もらえるものはもらっておいた方が得ではあるが……気が進まないな。
「すまないが、その提案は受けられない。さっきの言葉だけで俺は十分だし、それに、勇者パーティは解散するんだろ? そんな余裕はないはずだ」
俺がそう答えると、ナルドは特に態度を変えることもなく、頭をポリポリと掻いた。
「アルスならそう答えると思ったよ。確かに、勇者パーティは解散することになった。けど、まだそのくらいの余裕はある」
ナルドは俺の目をジッと見て言葉を続けた。
「辞退するなら、代わりに依頼を受けてくれないか?」
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