第46話:付与魔法使いは攻略する

 ◇



 たまに遭遇する魔物を処理しながら進むと、左右に分かれた扉がいくつもある通路に入った。


 扉はスルーして直進する。


「扉を開けなくて良いのですか?」


 セリアは扉が気になるようで、そんなことを尋ねてきた。


「ああ、いいんだ。扉の先には大量の魔物がいる」


 『周辺探知』により、扉を開かなくても中の状況はおおよそ分かる。


 扉の先の二十五メートルプールほどの空間には約五十体の魔物が犇いているのだ。


「トラップもあるのね。間違って開けたら大変ね……」


「まあ、トラップというより——おっと、着いたな」


 真っ直ぐ進むこと約五分で最奥に到着した。


 最奥の壁には一箇所だけ大きな扉がついている。


 扉には二十個ほどの鍵穴形状の模様がデザインされていた。


「この奥にダンジョンボスがいるようだ」


「なるほど……心してかからなければいけませんね」


 ダンジョンボスは雑魚とは比べ物にならないほど強い。


 俺たちは、改めて気を引き締めた。


「あれ? 開かないわ」


 扉を開けようとしたユキナが不思議そうに呟いた。


「そりゃそうだ。鍵がかかっているからな」


「も、もしかしてこの穴全部ってこと⁉︎」


「みたいだな。多分、さっき通った通路の扉を開いた先に鍵がある」


「ということは、やっぱり魔物をたくさん倒さなければいけないということですか……」


 セリアとユキナは来た道を引き返し始めた。


「何してるんだ?」


「鍵を取りに行かないといけないんですよね?」


「正攻法はな。俺たちは三人しかいないのにそんな面倒なことしてられるか」


「特別な方法があるのですか?」


「特別な方法はないが、この扉の先に確実にボスはいるんだ。ということはつまり——」


 俺は、扉に手を向けた。


「こうすればいい」


 『火球』。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオンンッッ‼︎


 火の玉を堅牢な扉に発射し、爆発。粉砕することに成功した。


 何重の鍵で守られていても、鍵自体を壊せばセキュリティは無意味。この世界の常識である。


「ええええええええええ⁉︎」


「お、思ったより力技でなんとかするのね……」


 ともあれ、道は開かれた。


 扉の先には、燃えるような赤色の巨大ドラゴンが俺たちを見下ろしていた。


「俺が引きつけるから、セリアはドラゴンの背後をとってくれ。そしてユキナはセリアのサポートを頼む」


 二人が頷いたことを確認した後、俺はドラゴンの前に飛び出した。


 できればセリアにドラゴンからの攻撃を捌いて欲しかったが、まだ力不足。今後の伸び代といったところだ。


 ドオオオンン‼︎


 翼で浮遊していたドラゴンが着地すると同時に、メラメラと燃えるブレスが飛んでくる。


 俺は、飛んできたブレスを走りながら斬り、そのままの勢いでドラゴンの後ろへ。


 ドラゴンが俺の方を向いたことで、セリアたちが背後を取れることとなった。


 二人の背後からの攻撃を悟られないよう、俺はドラゴンに攻撃を仕掛ける。


 まずは、軽くジャブ程度で様子見だ。


 『火炎貫通弾』。


 翼に向けてプスプスと攻撃を仕掛ける。


 しかし、雑魚では着弾場所を貫通できても、硬いドラゴンの皮膚は貫けなかったらしい。


 パンッ パンッ パンッ————‼︎


 もちろん、爆発によるダメージも大して与えられていない。


「なるほど、こんな感じか」


 だいたいのドラゴンの力量を把握したところで、


「アルス、行きます!」


 裏から迫っていたセリアの剣がドラゴンを斬った。


 不意打ちということもあり、さっきの俺の攻撃に比べれば有効なダメージになったようだが、ドラゴンに怯んだ様子は見られない。


「いいぞ、セリア。急いで下がれ」


「は、はい!」


 セリアが下がる際、ユキナがドラゴンの頭に遠距離から魔法による攻撃を仕掛ける。


 有効なダメージにはならないが、多少の目眩しにはなるので、セリアが逃げる余裕が生まれる。


 そして、俺が狙っていたのはこの先だ。


 ドラゴンは魔物の中でも比較的知能が高いと言われている。


 そのため、攻撃を受けた際は最も危険な冒険者をターゲットにする。


 さっきまではブレスを防ぎ、一気に後ろに回り込んだ俺に対してターゲットを向けていたドラゴンだったが、背後から強力な剣戟を繰り出したセリアにターゲットを変更したようだ。


 ——狙い通り。


 硬い皮膚で覆われているドラゴンだが、基本的には全ての皮膚が硬いわけではない。


 硬いことは、メリットである反面、可動できないというデメリットも存在する。


 ということは、可動域に関しては通常よりも柔らかいはずだ。


 それは当の本人が分かっているはずで、弱点をそう簡単には狙えない。


 だが、フリーになった今ならピンポイントでそこを狙える。


 ガラ空きになったドラゴンの背後を取り、剣でドラゴンの首を一閃。


 ザアアアアアアンンンッッ——!


 斬られたドラゴンの首はドンっと地面に落下し、動かなくなった。


 同時に、ダンジョンクリアを示す出口ポータルが出現したのだった。


「お、終わったのですか?」


「ああ」


「さ、さすがはアルスです……!」


「ほんと、一瞬だったわね」


「まあ、安全に早く倒せたのは二人のおかげだけどな」


 ピンときていない二人だが、確実に一人で相手にするより楽に攻略できた。


 正直にいえば、今回は二人がいなくても俺一人でどうにかなったかもしれない。


 だが、これから更なる強敵を相手にするとき、俺一人ではどうにもならない時に二人の力があれば打開できるかもしれない。


 ——そんな可能性を感じさせてくれた一件だった。

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