第45話:付与魔法使いはゲリラダンジョンに入る

 ◇


「さて、そろそろだな」


 ナルドたちが先にダンジョンに潜入して約十分。


 待ちくたびれてきたので、ポータルに入ることにした。


「もう入るのですか?」


「勇者の人たちまた怒りそうだけど」


「べつにいいよ。順番ってのはあいつらが勝手に言ってただけだしな」


 勝手に宣言して勝手に入っていったが、俺は何も約束していない。


 それに、俺は犠牲者ゼロを自分に誓っている。


 犠牲の対象が裏切られた元仲間だとしても、それは変わらない。


 あの五人でこのダンジョンをクリアできるはずがないのは分かっているので、なるべく早めに動いた方が良いだろう。


「まあ、あいつらが死にたければ俺が止める権利も義務もないけど、俺の代わりに入った新しい付与魔法師に責任はないしな。じゃ、行くぞ」


 そう言い、俺はセリアとユキナの二人を連れてゲリラダンジョンに入った。


 薄暗い洞窟のような空間だが、戦う上での視界は問題ない。


 ダンジョンの構造は、共通して雑魚部屋とボス部屋に分かれていると言われている。雑魚を倒しつつボス部屋を目指し、最終的にダンジョンボスを倒せばクリアになる。


 ダンジョンの中を進むこと十数秒。


「あ、魔物……って、勇者の人たちボロボロじゃないですか⁉︎」


「あのバジリスクって、ボスではないのよね?」


 勇者について詳しく知らない二人にとっては、勇者が雑魚相手に苦戦を強いられている姿は意外に映ったようだった。


「これならもうちょっと早く入っても良かったかもな……」


 俺が想像していたよりも勇者は弱かったらしい。


 と、それはともかく。


 まずは目の前の魔物の処理だ。


 俺は、ボロボロの勇者パーティを囲む二体のバジリスクの方へ手を向けた。


 今回は、近くにいる勇者たちを傷つけず、バジリスクだけを狙う攻撃を使うことにする。


 『火炎貫通弾フレイム・バレット』。


 魔物をピンポイントで貫き、着弾した瞬間に爆発を起こす攻撃用の付与魔法だ。


 バジリスクの頭を狙って発射後、一秒にも満たない時間が過ぎ——


 ドゴオオオオオオンンッッ‼︎


 と、軽い爆発が起こった。


 ドスンッ! ドスンッ!


 二体のバジリスクは同時に地面に崩れた。


「おおっ! アルスさすがです!」


「すごい……っていうかすごく綺麗な魔法ね!」


 それから、勇者たちの方へ歩いて行く。


 勇者たちは俺の攻撃に目を丸くしている。かなり驚いているようだった。


 そういえば、俺が主役になって攻撃するのは初めて見せたかもな。


「ゴホッ……お前……アルス、こんなのできたのかよ……」


 ナルドに声をかけられた。


「まあな」


「ど、どうして黙ってた……⁉︎ こんなことできるって分かってりゃ……」


「言おうとしたら、止められたからな。『クビは決定事項だ』ってな」


「……こ、こんなのいきなり出来るようになってるとか思わねえだろ!」


 全ての基礎にあるものは付与魔法であり、俺の攻撃は付与魔法の応用なので、いきなりできるようになったわけではないのだが、そう見えるのも仕方がない。


「俺だって攻撃魔法に関してはずっとイメージトレーニングしかしてなかったからな」


 魔法は理屈さえ分かってしまえば、あとは慣れにより感覚を研ぎ澄ませるだけ。慣らす作業は実際に魔法を使っても良いし、頭の中で済ませてもいい。


 頭の中で練習できれば魔力の制限がないため、一日の間にいくらでも練習できる。これにより膨大な種類の付与魔法の応用による魔法を極めることができた。


「イ、イメトレだけでこんなのできるようになるのかよ……」


 ナルドを含め、五人の勇者は全員が信じられないと言いたげな表情をしていた。


「……ということで、もう分かっただろう。この先は俺たちが行く」


「……」


 返事は返ってこなかったが、俺はセリアとユキナを連れて勇者たちを追い抜いた。


 その直後。


「……アルス」


 ナルドのボソッとした声が聞こえた。


「ん?」


「……頼んだぞ」


 まさか、こんな言葉を聞くときが来るとはな。


 自分たち勇者では力不足であり、俺たちに任せるほかないと悟ったのだろう。


「ああ、任せておけ」


 俺はそう答え、ダンジョンを先に進んだ。


――――――――――――――――――――――――

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ぜひ読んでみてください!

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