追放された付与魔法使いの成り上がり 〜勇者パーティを陰から支えていたと知らなかったので戻って来い?【剣聖】と【賢者】の美少女たちに囲まれて幸せなので戻りません〜
第43話:付与魔法使いはゲリラダンジョンに遭遇する
第43話:付与魔法使いはゲリラダンジョンに遭遇する
翌日。
食堂の営業が再開したという話は瞬く間に広まり、朝から大盛況になっていた。
なお、俺が解決したという話はしないようにコックにお願いしていたため、俺が注目される事態にはなっていない。
こんなお願いをした理由は二つ。
一つ目は、無駄に目立ちたくないから。
二つ目は、魔力に限界があるため、全ての食材を復活させるのは無理だから。
俺が復活させたと噂になれば、村中の色々な方面から復活をお願いされるかもしれない。頼まれても受けられないなら、知られない方が良いだろう。
ということで、俺の手柄は知られていないはずなのだが——
「食堂の食材を復活したのってアルスさんですよね!」
朝食を済ませた後、いつも通り冒険者ギルドに入るなり、受付のギルド職員からいきなり詰問に遭ってしまった。
「さ、さあな」
「違うって言わないってことは、やっぱりそうだったんですね!」
「……どうしてそう思う?」
「アルスさん以外にこんなことできませんよ」
なるほど、そういう考え方もあるのか。
このギルド職員の前の前で壊れた魔力量検査用の水晶を直したことがある。俺ならできると思ってしまうのも無理はない。
「……まあ、だとしても黙っといてくれよ?」
「アルスさんがそう仰るなら秘密にしますけど、手柄を隠す冒険者なんて珍しいですね」
「まあ、目立つために冒険者になったわけじゃないからな」
ようやく質問から解放され、今日受ける依頼を物色しに掲示板の前へ。
「どれにしますか?」
「そうだな……」
順番に募集されている依頼を確認していく。
「なんか、今日は依頼が薄いな……」
いつもならボードいっぱいに依頼書が貼られているのだが、今日は数自体が少ない。
「昨日から魔力が乱れているせいで魔物の活動が落ち着いてるのかも」
ユキナが呟いた。
「多分それだな。仕方ない、今日は何か適当に——」
と依頼書を剥がそうとした時だった。
ドオオオオオオオオオオォォォォンンッッ‼︎
……⁉︎
突如、耳を擘く轟音が鼓膜を響かせた。
「な、なんですか……⁉︎ 大きな音がしましたけど」
「外からみたいだけど……」
「見にいこう」
依頼書に伸ばしていた手を引っ込め、冒険者ギルドの外へ。
外では状況を確認しようと出てきた冒険者や村人でごった返していた。
見渡す限り、村の建物に損壊や火災などは見られない。隕石の類ではなさそうだ。
ここからでは村全体を見渡すことができないので何があったのかよくわからない。
その時、近くの建物の三階の窓から顔を出していた村人が叫んだ。
「ダ、ダンジョンだ! なんてこった!」
村の中にダンジョン……⁉︎
俺はジャンプして近くの建物の屋根に飛び乗った。
確かに、村の東に青色をした穴のようなダンジョンの入口『ポータル』が見える。
この世界では、魔素の渦により『ダンジョン』と呼ばれるが自然発生することがある。
最近不安定だった龍脈を流れる魔力が地上に作用し、空気中に含まれる魔素を刺激し、渦を発生させ、その結果ダンジョンができた——といったところだろうか。
村の中で発生することは稀とはいえ、ダンジョンの発生自体は珍しいものではない。
しかし、このダンジョンは——
「……ゲリラダンジョンか」
ポータルの上には、『0d 2h 58m 48s』という表示。
あと二時間五十八分以内にクリアできなければ、魔物がダンジョンの外に溢れ出すということを示している。
ダンジョン外に魔物が溢れるというのは、村の中に魔物が大量発生することを意味する。
俺の故郷——アルヒエル村に発生したものと同じタイプである。
一旦屋根を飛び降り、セリアとユキナのもとに戻る。
「ど、どうでしたか……?」
「……」
俺の深刻そうな表情を見た二人は、言葉で説明せずともすぐにゲリラダンジョン発生が本当のことだと確信したようだった。
「あと三時間弱でクリアしなきゃいけない」
「ど、どうしましょう……」
「六年前にゲリラダンジョンが発生した時は、最終的に村は壊滅……勇者や王都からの応援でのべ一万人が動員されてやっと鎮圧したのよね……」
これから、一〜二時間以内に村の中で討伐隊が編成されるだろう。
超高難易度ダンジョンであることが予想されるため、参加すれば生きて帰れる保証はない。
「三時間あれば隣の村まで十分逃げられるな……」
「……え?」
俺の独り言が意外だったのか、セリアが驚く。
だが、もちろん俺が逃げるという意思表示ではない。
《ベルガルム村に緊急事態宣言が発令されました! 住民は直ちに避難を開始してください!》
村中に響き渡る避難命令が聞こえる中、俺は付与魔法の応用である『周辺探知』を使う。
普段は隠れた魔物を探す際に使う付与魔法だが、今回は人を見つけるために使う。
ベルガルム村全体を見渡し、全員に付与魔法『移動速度向上』を付与した。なお、『移動速度向上』はそれほど魔力を使わないので、俺の負担は小さい。
「これで安全に避難できるだろう」
「すご……みんなに付与したのね」
「なるほど、アルスが逃げるって意味じゃなかったんですね!」
「当たり前だろ。今回は犠牲者ゼロを厳守だ」
六年前のゲリラダンジョンで俺の故郷は壊滅し、父さんも母さんも死んだ。
逃げるという選択肢は最初から存在しない。あの時のリベンジ……いや、復讐を果たすことこそが今の俺がすべきこと。
あの時の幼かった俺は何もできなかったが、今ならクリアできる自信がある。
「アルスさん!」
「ん?」
冒険者ギルドから急いで出てきたギルド職員に声をかけられた。
「もうご存知でしょうが、ゲリラダンジョンが発生したようです。討伐隊を編成しているところで……力を貸していただけないでしょうか」
ああ、なるほど。
「もちろんゲリラダンジョンには行く。だが、悪いが討伐隊には参加しない」
「参加しない……⁉︎ で、では三人で……?」
「ああ」
「さすがにアルスさんと言えど無茶では……」
「即席の統率されていない集団では、人数だけ多くても足手纏いだ。連れていくのはセリアとユキナだけで良い」
あくまで俺は『犠牲者ゼロ』にこだわっている。誰が来るのか知らないが、さすがに全員を守りながら戦える気はしない。
「そ、そうですか。……でしたら、お任せします」
ギルド職員は残念そうだったが、受け入れるしかないといった感じだった。
「さて、さっそく向かうぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます