第42話:付与魔法使いは挑発される
◇
食堂から宿への帰り道。
「それにしても、村中の食料が一斉に腐ってしまうなんて……。悪いことの前触れじゃなければ良いのだけど……」
ユキナが不安そうに呟いた。
「そうだな……」
魔力災害と呼ばれる、地中の龍脈を流れる魔力の暴走による天変地異が稀に発生することがある。稀といっても王国内でのどこかでは一年に一度程度の頻度で起こりうるもの。
魔力災害の前兆として、暴走した自然の魔力が偶発的に魔法に変換されてしまい、普段ならあり得ないことが起こる現象があるのだ。
腐敗を進行させる魔法の構造自体はそれほど難しくないため、偶発的に起こっても不思議はない。無論、村一つ分の食材を腐らせるほどの魔力となると人間にとっては莫大だが、自然にとっては大した大きさではない。
とはいえ、こういった前兆があったからといって、必ず魔力災害が起こるわけではないので、何事もないことを祈るばかりである。
そんなことを思いながら歩いていたところ——
「よう、アルス。また女増やしたのか?」
「ん?」
どこかで聞いた声がしたので振り向く。
そこには、俺たちをまじまじと見つめるナルド率いる勇者一向がいた。
しかしこれまでとは違い、ナルドたち四人だけでなく見たことがない顔も一人いる。
声をかけてきたのはナルドだったらしい。
ナルドたちは串焼きにした魚をもぐもぐと美味そうに食べている。
「何を期待しているのか知らないが、パーティメンバーの性別がどうかみたいな低次元の世界で俺は生きていないぞ」
「っ! ……まあいい、これ何かわかるか?」
左手に持った串焼きの魚をひらひらして見せた。
「魚? 種類は知らんが」
「そうだ! 羨ましいか?」
「……?」
意味がわからず、俺は一瞬固まってしまった。
確かに焼き魚は美味しそうではあるが、さっき美味しい料理を食べたばかりなので羨ましいとは感じない。
というか、どこからその発想が生まれたのかピンと来るまで時間がかかってしまった。
「羨ましくはないが……そういや、村中の食材が腐って大変なことになってるのに、どこから持ってきたんだ?」
「ふははは! そうか、羨ましいか!」
いやだから、羨ましくはないのだが。
……まあ、面倒だからもういいか。
「勇者ってのは特別な存在だからよォ、絞めてすぐに優先して配給されたんだぜ?」
「へえ、そうなのか」
俺たち人間などの生きている動物や根を張った植物が腐らなかったということから、あくまでも既に絞められた動物や野菜などの食材だけが腐ったことがわかる。
ゆえに、一斉に食材が腐った後に収穫した食べ物は無事ということになる。
「それで?」
「お前もこの前戻ってくれば飢えることもなかっただろうに残念だなあってな!」
「そ、そうか」
「あ、ちなみにだが……もう戻ってきたいと言っても遅いぜ?」
ドヤ顔でそう言うと、ナルドは勇者パーティ集団の中にいる金髪の少年に肩を回した。
「新しい付与魔法師をスカウトしたんだ。てめえより圧倒的に有能なんだぜ?」
「……そりゃ良かったな」
なぜ俺に報告するのか理解に苦しむが、新しい勇者をスカウトするなら俺を追い出す必要は果たしてどこにあったのだろうか?
まあ、きっと行き当たりばったりで行動しているに過ぎないことは俺が一番良くわかっているので、わざわざ聞くようなことはしない。
「せいぜい復帰を断ったことを後悔しろ! あばよ!」
そう言いながら、勇者一行は去っていったのだった。
一連の様子をポカーンと見ていたセリアとユキナ。
「ナルドって人、なんかよく絡んできますけどアルスのこと好きなんですかね?」
「それはないだろ」
「まあ、ですよね」
「っていうか、アルスって勇者アルスだったの⁉︎」
「うん、まあ一応。追い出されたけどな」
そういえば、まだユキナには言ってなかったな。言う必要がなかったのと、言うタイミングがなかったからだが、パーティに加入してからは隠していたわけではない。
「追い出されって……こんなに強いのに? 呼び戻したかったみたいに聞こえたけど?」
「まあ、地味な貢献しかできてなかったせいでなかなか理解されなくてな。パーティを抜けてから重要性に気づいたみたいだ」
「一緒に戦っていればわかりそうなものだけど……」
「まあ、俺だって最初から今の力があったわけじゃない。毎日少しずつ成長していると変化に気づかないこともある。そういうことなんじゃないか?」
「そんなものかしら」
さて、ナルド率いる勇者パーティは新しい勇者を迎えたとのことらしいが、俺より有能ってのが本当なら良いんだがな。
自画自賛するわけではないが、俺は現時点で世界でも上位の付与魔法使いだという自信がある。
あの少年がどれほどのものか……まあ、勇者は活躍すればすぐに噂になる。楽しみに待つこととしよう。
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