第36話:付与魔法使いは励ます

「だ、大丈夫なのでしょうか……?」


 セリアが心配そうにユキナの顔を覗き込む。


「大丈夫だよ〜、ママ。寝てるだけみたい」


 シルフィがユキナの状態を確認し、伝えてくれた。


「そうでしたか。でも、無理もありませんね……。私はもはやアルスが何をしても驚きませんけど、初めて見るのがあれならこうなってもおかしくないかと。説明なしに撃てば、自分に向けられていなくても怖かったのだと思います」


「安心させたいと思っただけなのにな……」


 安心させたいと思って放った『地獄の紅焔ヘル・プロミネンス』で逆に怖がらせてしまうとは。

 まったく、皮肉な話である。


「ん……」


「気が付いたか」


 あれから程なくして、ユキナは目を覚ました。


「私、気を失っていたの?」


「そうみたいだな」


 寝起きのユキナは俺が魔法を放った跡地をまじまじと見つめる。


「セリアが強い時点で、アルスも強いことは想定していたけど、これは想定外だったわ……。こんなことが人間にできるなんて、この目で見てもまだ信じられないもの」


「真面目にコツコツ頑張ったからな。それよりも、これなら安心できそうか?」


「ええ、安心はできたわ。アルスがいる限り、魔物に殺される未来は見えない」


「そうか、なら——」


「でも、これだと逆に……パーティに入ることはできないわ」


 俺たちが弱ければ死んでしまうかもしれない——というユキナの不安を払拭するために頑張ったのだが、なぜかこれが原因でパーティに入れないと言い出すユキナ。


 俺はどうして良いか分からず、次の言葉を待った。


「私じゃ足を引っ張ってしまうもの……」


 ユキナは悲しそうに俯く。

 なるほど、要するに力量差がありすぎてパーティに入るのが申し訳ないと思わせてしまったようだ。


「それなら心配する必要はない。セリアだって、数日前まではこれほど強くはなかったからな。せいぜい一般的なDランク冒険者くらいだった」


「嘘でしょ……?」


「本当ですよ!」


「……」


 セリア本人から言われてもまだ信じられない様子のユキナ。


 俺だってセリアの成長が普通ではないことくらいはわかるので、ユキナの信じられないという気持ちは理解できる。


 でも、これが真実なのだ。


「じゃあ、ユキナを使って証明しよう」


「私……?」


「今日ここで魔法を俺が教えて、手応えを感じられるくらいにはユキナを強化する。そうすれば自信を持って俺たちのパーティに入れるはずだ」


「そんなことができるの……? 普通はそういうのってめちゃくちゃ時間がかかるものなんじゃ……」


「ああ。普通はそうだし、根本的に強くなるには地道な修行がモノを言うのは確かだ。でも、セリアに驚くくらいならユキナはまだまだこの状態でもポテンシャルを残している。そのポテンシャルを引き出すというだけのことだ」


 俺はそう説明し、辺りに手頃な魔物がいることを確認する。

 一匹だけはぐれているサラマンダーがちょうど良さそうだ。


「そうだな、ユキナでもサラマンダーくらいなら今でも倒せるだろう。あれを倒してみてくれ」


「一匹くらいなら確かになんとかなるけど……これが修行?」


「いや、修行じゃなくて実際に戦っているところを見て俺が指導の参考にするだけだ。俺はまだユキナが戦っているところを見たことはないからな」


 もちろん、普段の姿勢、歩き方、感じ取れる魔力量などからおおよその力量は把握できる。

 しかし戦闘特有のセンスなどは見てみないと分からないところがある。


「分かったわ。サラマンダーを倒せばいいのね」


 ユキナは俺の指示に従い、一匹のサラマンダーに狙いを定めた。


 賢者は攻撃魔法において最強と言われるユニークジョブだが、さて——


「……っ!」


 ユキナは火属性魔法を使うべく魔力を練り、魔法を展開する。

 一見単純な火球かと思いきや、ユキナから放たれた火球はまるで光線のように高速で直線上に伸びていく。


 なるほど、『火炎光線ファイア・ビーム』だな。

 火炎光線がサラマンダーに衝突した瞬間、爆発が発生する。


 ドガアアアアンンンッッ——!!


 しかし——


「くっ、やはり一撃ではダメね……」


 ユキナは再度『火炎光線』を放ち、二度の攻撃でサラマンダーを仕留めたのだった。


「サラマンダー相手に二発……これがどうにかなると思う?」


 ユキナが心配そうに尋ねてくる。


 俺はニッと微笑んだ。


 一連の流れを見たところ威力がまだ足りていないが、全体的に悪くない。

 ユキナは単純な威力が低いだけのことで自分を過小評価していただけにすぎないようだ。


「ユキナ、自分を卑下する必要はないぞ。めちゃくちゃ才能がある」


「そ、それって本当なの……?」


「本当ですよ! アルスの言葉は絶対です!」


「シルフィもパパの言う通りだと思うの〜」


 セリアとシルフィはよく分かっているようだ。

 俺はつまらない嘘はつかない。


「ああ。この後すぐにでも実感できるようにしてやろう」

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