第35話:付与魔法使いは証明する

「わ、私一人でですか……?」


「そうだ。心配しなくても今のセリアなら何の問題もない」


「そ、そうですか……アルスがそう言うのなら、信じますが……」


 セリアはやや自信がないようだ。


 でも、ガイルの剣を手に入れ、短い期間ではあるが俺の指導により成長したセリアがサラマンダー一匹程度に遅れを取ることはないことを俺は知っている。


 とはいえ、肩の力を抜いてくれないとな。


「危なくなったら助けに入るから、安心して飛び込むといい。逆に言えば、俺が助けに入るまでは何の問題もないということだ」


「な、なるほど……! 万が一の時はアルスが助けてくれるというのは心強いです!」


 どうやら俺の一言でセリアはいつもの調子を取り戻したようだった。


「いきますね!」


 セリアは剣を右手に力強く持ち、近くにいた一匹のサラマンダーに斬りかかった。


 サラマンダーは接近してくるセリアに反応し、素早い動きで攻撃を躱そうとする。

 現段階では、単純なスピード競争ではセリアの方がやや分が悪い。


 しかし、セリアには『剣聖』としての卓越した動体視力と勘がある。


 『勘』は軽視されがちだが、近接戦闘においては相手の動きを常に予測し、どれだけ先を読めるかが勝敗を決めると言っていい。それほど大事な要素なのだ。


 これは才能とも言い換えられるが、間違いなくセリアには剣の才能がある。


 勇者として数多の魔物と対峙し、人類最高峰と名高い勇者パーティの剣士を見てきた俺がそう思うのだから、間違いないだろう。


「な、なるほど……! 見えました!」


 どうやら、セリアにも見えたようだ。

 勝利への道筋というものが。


 セリアはサラマンダーの動きを予測し、俺が教えた通り剣に魔力を込める。

 ゼロ距離から魔力を放出しつつ、剣の刃も一緒にクリティカルヒット——


 ドガガガガアァァァァンンッッ!!


 攻撃が当たった瞬間、剣先で爆発が起こる。

 サラマンダーの身体は後方へと吹き飛んでいき、およそ20メートルほど離れたところで静止した。


 不安がっていたセリアだったが、完全なオーバーキルである。


「セリア、よくできたな」


「アルスが言った通りでした! 結構ちょろいですね!」


 常に適度な警戒心を忘れてはいけないが、自信とのバランスをとることも忘れてはいけない。

 良い経験になったことだろう。


「な、なんなの……今のは」


 俺の隣からセリアの戦いを見ていたユキナは目を見開いて信じられないとでも言いたげな顔をしていた。


「普通に攻撃をしただけだぞ?」


「あれは普通じゃないでしょ!?」


「そうか? 確かにセリアにはセンスがあるが、あのくらいなら時間をかければ誰にでもできることだぞ。驚くのは、今後の成長の方だな」


「あ、あれにまだ成長の余地が残されているというの……?」


 俺の想定以上にユキナにとってインパクトがあったようだ。


「さて、次は俺の番だな。セリアが剣で倒してくれたし、俺は魔法で倒すとするか」


 そう呟き、30メートルほど離れたサラマンダーのパーティに狙いを定める。


 サラマンダーはDランク冒険者にとって単独でも手強い敵だと言われているが、パーティとなると格段に難易度が増す。それを一人で倒したとなれば、少なくともCランク冒険者以上の実力であるとユキナに証明することができるだろう。


 しかし、それではまだ不十分だ。


 ユキナは仲間を失うことを極度に恐れている。

 絶対に俺自身が死なず、仲間も死なせない力を持っていることを知らせる必要があるのだ。


 自重せずに、さっきのセリア以上のオーバーキルで倒すとしよう。


 まずは俺自身に強化魔法バフを付与し、サラマンダーたちには弱体化魔法デバフを付与する。


 そして、身体強化でさらに能力を引き上げる。


 今回攻撃に使う付与魔法は『地獄の紅焔ヘル・プロミネンス』。


 魔法師がよく使う魔法の一つに、超高温の火を投げつけ、対象に衝突した瞬間大爆発を起こす魔法——プロミネンスがある。


 俺は付与魔法師だから、魔法の性質を意図的に組み替え、任意の性質を付与することもできる。

 こうして改良の末、出来上がったのが地獄の紅焔ヘル・プロミネンス


 しかしこれはとてつもない威力になることと引き換えに、魔力消費も凄まじい。

 これを使わなくても勝てる場面ばかりだったので、作ったのは良いものの使うタイミングがなかった。


 そのため、理屈上は完成しているが、実戦で使うのは今回が初めてということになる。


 俺は手のひらに、蒼く燃える超高圧縮・超高温の火球を生成した。


「な、なにこれ……こんな火球見たことないわ……!」


 さすがは攻撃魔法を得意とするユニークジョブ『賢者』と言ったところか。ユキナは一目見ただけでこれがヤバいものだと認識したようだった。


 しかしこの火球の真価はサラマンダーに投げつけ、その衝撃で圧縮された魔力が放出されたタイミングを迎えるまでわからない。


「よく見ておいてくれよな」


 身の危険を感じたサラマンダーの群れが逃げ始めると同時に、俺は地獄の紅焔ヘル・プロミネンスを放った。


 同時に高温と衝撃で俺たちが被害を受けないよう付与魔法でバリアを展開し、身を守ることも忘れない。


 刹那、攻撃は着弾し——


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオォォォォ————ン!!!!


 と、今まで聞いたこともないような轟音が鳴り響く。

 巨大な火柱が空の彼方まで立ち上り、まるでこの世の終わりのような光景が広がった。


 それから数分で火柱は消滅した。

 着弾地点は完全に燃え尽きており、衝撃で黒い穴が空いている。


 穴の周りはガラス化しており、地面がキラキラと輝いていた。


「どうだ? ユキナ、これで安心できそうか? ん……?」


「あわわわわわ……」


 これなら安心してユキナは俺たちと一緒にパーティを組めるだろう。

 そう思っていたのだが、ユキナは泡を吹いて倒れてしまっていたのだった。

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