第34話:付与魔法使いは紹介する

「私があなたたちのパーティに?」


「そうだ。言ってなかったが、俺は魔王を倒して平穏を取り戻すためにパーティを作った。世界中を巡ることになるし、俺の目的はユキナの方向性とも反しない。悪い提案じゃないと思うぞ」


 普通の冒険者とは見ている先が違うのは、俺もユキナも同じはずだ。

 この世界のどこかにいる諸悪の根源を探し出し、倒す過程で魔法書を探すこともできるだろう。


「なるほど……。提案はありがたいけど、引き受けられないわ」


 だが、ユキナからは俺の誘いを断られてしまった。


「そうか。理由を聞かせてもらってもいいか?」


「アルスがダメというわけでも嫌というわけでもないの。私はただ、一人がいいだけ」


「ユキナは一人が好きなのか?」


「いいえ。でも、出会いがあれば別れもあるものじゃない? いつまでも一緒にいられるわけじゃない。それなら、最初から一人の方が良いってだけのことよ」


 ユキナは淡々と説明した。

 さっきユキナは自身のことを臆病だと言っていたが、まさにそれが理由なのだろうと俺は気づいた。


 これまで長くパーティを組まなかった真の理由——それは、方向性の違いともう一つある。


「つまり、大事にしてきた仲間が死ぬのが怖いってことだな?」


 俺がそう言うと、ユキナはビクッと身体を揺らした。

 どうやら当たりのようだ。


 一緒に長くいればいるほど、仲間を大事に思う気持ちは強くなっていく。

 比例してその仲間が死んだしまった時のショックも大きくなる。


 ユキナはそれが嫌なのだろう。


「……そう、かもしれないわね。もちろんアルスたちが死ぬなんて思ってないけど」


 そう言いつつ、実のところは心のどこかでそう思っている。

 だからユキナは受け入れることができないのだ。


 それなら——


「ユキナ、俺たちは多分ユキナが思ってるより強いぞ? 賢者ユキナはこれまで確かに仲間が頼りなく見えたんだろう。厳しい言い方をするが、それは思い上がりだ。この後、それを証明するよ」


「ユキナに良いところを見せればいいのですね……!」


「セリア、無理して強く見せる必要はないんだ。いつも通りやればユキナにも伝わるはずだ」


「そうですか……?」


「ああ、そうだ。絶対に」


 俺はそう言い、席を立った。


「ユキナ、早速だが一緒についてきてくれ。返事は今日の依頼が終わるまで待つよ」


「ええ……分かったわ」


 ◇


 それからギルドに戻り、新たな依頼を受注した。

 今回からはDランク依頼。


 Eランクは『冒険者』というものに慣れさせる意味合いが強く、これまで俺たちはEランクパーティが少人数で受けるには難易度が高いパーティ向けの依頼を受けていたとはいえ、Dランクとなるとまたガラリと世界が変わる。


 ランクの評価を受付嬢に聞いたところ、おおよそではあるがDランク冒険者はEランク冒険者10人分の強さであり、その強さに応じた依頼を受けることができる。


 ちなみにCランク冒険者はDランク冒険者10人分、Bランク冒険者はCランク冒険者10人分、Aランク冒険者はBランク冒険者10人分……ということらしい。


 このようなイメージでランク付けをしているそうだ。


「それにしても、いきなりDランク依頼の中でも強いものを受けてしまって大丈夫でしょうか?」


「ユキナに俺たちの力を認めさせるには、中途半端な魔物を倒しても仕方ないだろ?」


「それはそうですが……」


 俺たちが受けたDランク依頼は、ベルガルム森林を超えた先にある平原地帯に生息するトカゲの魔物——サラマンダーを30体駆除すること。


 しかもソロが推奨されない、つまりパーティ向けの依頼でもある。


 セリアはDランク以上の依頼は初めてなのでやや緊張しているようだが、俺は勇者パーティ時代にサラマンダーとは戦ったことがある。


 何の問題もないだろう。


 サラマンダーの顎はまともに食らえば一撃で腕を噛みちぎられるほどの攻撃力がある。強力な脚力も兼ね備えているから、Eランク冒険者では瞬殺されてしまう可能性がある。


 さらには群れを成していることもある。複数のサラマンダーと対峙することになれば、普通のDランク冒険者では3人では心許ないだろう。


 だが、俺にはどうにかなるという確信があった。


「パパ、出てきても良い〜?」


 村が見えなくなる程度の距離まで来た時、俺の脳内に精霊界からシルフィの声が聞こえてきた。

 なるほど、声だけをこっちの世界と繋げることもできるのか。


「いいぞ」


 返事をすると、シルフィが虚空から出現し、大きく伸びした。


「はぁ〜、やっぱり外は良いな〜! あっ、この人が噂のユキナ?」


「そうだ」


 どうやら向こうにいても、こちらのことは完璧に把握できているようだな。

 説明の手間が省けて助かる。


 ふわーっとユキナの方まで飛んでいき、まじまじと見つめるシルフィ。

 突然かつ、初めてシルフィを見たユキナはかなり驚いているようだった。


 精霊だと知らなければ、手のひらサイズの人間を見て驚かない方がおかしいか。


「えっと……この子は?」


「精霊のシルフィだ。まあ、色々とあって俺たちについてきている。人間に敵意はないから優しくしてやってくれ」


「せ、精霊……!? ま、まあそう言われれば納得できなくもないけど……どういうことなの……?」


「まあ、話すと長くなるから。気になるなら村に戻ってから詳しく話すよ」


 まだパーティに入っていないユキナにシルフィを見せて良いものかと迷ったが、問題ないだろう。

 この後、必ずユキナは正式に俺たちのパーティの一員になる。

 そんな確信があった。


 それから数十分ほど移動し、目的地に到着した。


「じゃ、まずはセリアから一匹倒してみてくれ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る