第33話:付与魔法使いは事情を訊く
◇
もぐもぐもぐもぐ……ごっくん。
かなりお腹が空いていたのだろう。
ユキナは食べ物が出てくるなり、物凄い勢いでご飯を食べていた。
この細い身体のどこにこれだけ入るのだろう……と思っていると、完食したようだった。
「あ〜美味しかった! ご馳走様でした!」
「す、すごい食べっぷりです……!」
セリアも俺と同じ感想を抱いていたようだ。
「大分元気になったようだな」
「ええ、おかげさまで。ありがとう……えっと」
「そう言えば、まだ俺たちの方は名前を名乗ってなかったな。アルス・フォルレーゼだ」
「私はセリア・ランジュエットですよ!」
「アルス、セリア……ね。私はもう名前は覚えられちゃってるみたいだけど一応……ユキナ・リブレントよ」
初めて出会ったのが空腹時だったためこんなものかと思っていたが、比べてみると今の方が顔色も良く、表情も豊かになっている気がする。
それにしても、ユニークジョブ『賢者』か。
古書でしか触れたことがなかった特異な存在。セリアを見ていると普通の女の子だったが、どうやらユキナもそれは同じらしい。
こうして見ていると何も特殊なようには見えなかった。
あえて一つ特筆する点があるとすれば、美人なところだろうか。
そんなことを頭の隅で考えながら俺も完食した。平らげたところで、少し気になっていたことをユキナに尋ねる。
「チラッとギルドカードを見たんだが、ユキナは賢者なんだよな」
「ええ、そうよ。他の人よりも攻撃魔法に関しては自信があるわ」
『剣聖』が剣において強みがあるように、『賢者』というユニークジョブにも攻撃魔法の強さという強みがある。
当然ながらユキナ自身もそれを自覚しているようだった。
「見たところ所属パーティはなさそうだが、どうして入らないんだ?」
ユニークジョブの持ち主であることを説明すれば、引く手数多だっただろう。
「ちょっとだけ他所のパーティにも入っていたことはあるけど、馴染めなかったのよ」
「ユキナならそんなことはなさそうだけどな」
「私が出会ったのは、普通の冒険者だったわ。彼らが悪いわけではないけれど、私が目指す方向を向いてなかった。よくしてもらっていたけど、私には彼らに合わせることができなかったの」
なかなかに抽象的な言い方だな……。
一般的な人間にとっての冒険者稼業とは生活費を稼ぐための生業でしかない。
そこに何らかのやりがいや夢を持つ者も多いが、ユキナが目指す先はそういったものではなかったということか。
だとすると、ユキナが目指す方向とやらが気になるな。
「ユキナはどうして冒険者になろうと思ったのですか? あっ、話したくないことなら話さなくてもいいんですけど……」
俺の隣でひっそりと話を聞いていたセリアが尋ねた。
「べつに隠すことでもないわ。私は世界に散らばる七冊の魔法書を探しているの」
「魔法書……ですか?」
俺とセリアは顔を見合わせた。
言葉自体は聞いたことがあるが、御伽噺の中に出てくる空想の産物だという認識だった。
「魔法書っていうのは、読むだけで様々な魔法が使えるようになるっていう……あれのことなのか? 実在しないものだと思っていたが……」
「正確には、その魔法に適性がある人間が読めば魔法が使えるようになるという代物よ。私の父は魔法学者だったの。私が小さい頃に亡くなってしまったけど、その生涯を魔法書研究に捧げたわ」
ユキナはローブの中から一枚の古びた紙を取り出し、俺たちに見せてくれた。
ギルドカードですらそこまでしていなかったのに、この紙は肌身離さず持っている。……ということは、よほど大切なものなのだろう。
「これは父が魔法書の手がかりをメモしたものよ」
古びた紙には、文字と図が細かく書き込まれていた。
おそらく多数の文献から寄せ集めたであろうメモからはユキナの父の情熱が伝わってくる。
地図のような書き込みも見られるが、大まかに大陸のこの辺りといった感じで場所を突き止められるほど詳細なものではなかった。
「なるほど。これはなかなか大変な旅になりそうだな」
「ええ、すぐに見つかるとは思っていないわ。でも、生きている間に必ず全部集めきるつもり」
「俺に止める気はないし、そんな権利がないことは承知の上で聞くんだが……なんでユキナがそこまでするんだ?」
お父さんの夢を追う必要がないとは言わないが、ユキナにも他にやりたいこともあるだろう。
魔法書が本当に存在するとして、それを集めるために他の全てを捨てるというのは、お父さんも望んでいないのではないだろうか。
「魔法書を全部集めて、どうしても欲しい魔法があるからね。私、最近冒険者になったんだけど、きっかけは自由になったからなの」
「自由?」
「母は昔から身体が弱くて……なのに私を育てるために働きすぎて身体を壊しちゃったの。しばらく看病してたんだけど……死んじゃって」
看病の必要がある人が亡くなったから、魔法書集めができるということか。
それにしても、思っていたよりもなかなかに重い話になってきたな……。
「魔法書は一冊ずつでも規格外の魔法が使えるようになると言われているわ。でも、七冊全ての魔法書を集めた時、賢者は『蘇生魔法』が使えるようになると言われているの。私が望むものはそれよ」
「それは亡くなった両親を蘇生したいからってことなのか?」
「それもあるわ。でも、それ以上に大事な人を失うのはもう嫌だから」
「なるほど、ユキナは優しいんだな」
「臆病なだけよ」
大事な人を失う苦しみは俺にもわかる。
もしも蘇生魔法なんてものがあり、賢者である自分にしか使えない魔法だと知れば、俺も同じことをしていただろう。
そして意外だったのは、両親の死に縛られていなかったことだ。
両親の蘇生をするのが主目的ではなく、これ以上悲しい思いをしたくない——そのために蘇生魔法を習得したい。
ユキナは俺が感じていた以上に前向きで強い子のようだ。
『賢者』というユニークジョブのインパクトが目立っているユキナだが、俺はそれとは関係なく話せば話すほどユキナが欲しくなっていた。
共感ができることと同時に、きちんと育てれば強力な戦力になる。
俺の最終目標——魔王討伐により平穏な日常を取り戻すことにも大きく近づくだろう。
「ユキナ、正式に俺たちのパーティに入らないか?」
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