第32話:付与魔法使いは受け入れる

 どのような意味で言っているのか分からず、聞き返そうとした時だった。


「体で返すってどういう意味なのですか? アルス、教えてください!」


 セリアは俺とは別のベクトルで意味が分かっていないようで、なぜか俺に尋ねてきたのだった。

 しかしこれはなんと説明すれば良いか……。


「これはセリアにはまだ早いんだ」


「そうなのですか……?」


 純真なセリアにはショックが大きすぎる。こういうことはもう少し成長してからのほうが良いだろう。


「それとユキナ、もう少し自分を大切にした方がいいぞ」


 俺はユキナの肩をポンと叩く。


「わ、私だってやるときはやるのよ! それに、さっき断る理由がないって言ったじゃない」


「それはそうだが、話が別というか……」


「私じゃ戦力にならないと思われているのね……。荷物持ちでもなんでもするのに……」


 ユキナはショックを隠しきれない様子で肩を落としてしまった。

 しかし気になる言葉が出てきた。


「ん、戦力ってどういうことだ?」


「そのままの意味よ。お金がないから、この身で……依頼のお手伝いをしてお礼をしたいって言ったんじゃない」


「…………なるほど」


 俺はどうやら大きな早とちりをしてしまっていたらしい。


 どんな早とちりなのかはもう思い出したくもないが、よく考えればそりゃ初対面の男にそんなことは言わないだろう。


 この早とちりを悟られないよう誤魔化すとしよう……。


「アルス、構わないのではないでしょうか……?」


 セリアにもあの説明なら意味が伝わったようで、俺に耳打ちしてきた。


「そ、そうだな! ちょっと悩んだけどよく考えれば戦力になるかどうかはやってみないとわからないよな!」


「……? ええ、そう言ったつもりなのだけど」


 変な意味ではなく、文字通り体でお礼をしてくれるというのなら断る理由はない。


 戦力としては俺とセリアだけで十分足りているとはいえ、たまには違う冒険者の戦い方を間近で見るというのも良い刺激になるだろう。


「よし、そういうことならぜひお礼をしてくれ」


「ええ、役に立てるように頑張るわ」


 ふう、なんとか自然な形で着地できたようだ。


 冒険者ランクがDランクということはまだ成長途上なのだろうが、『賢者』というユニークジョブのポテンシャルを見られる機会はそう多くない。


 まさかシルフィが拾ってきたギルドカードでこんなことになるとはな。


「あ、アルスさん。依頼の清算の方、承ります」


「……そうだったな。よし、頼む」


 俺はいつものようにギルドカウンター裏に移動し、アイテムスロットから討伐証明のゴーレムを10体取り出す。


 そして俺とセリア合わせて二枚のギルドカードを受付嬢に預けた。


 ユキナは俺が何をしているかいまいち分かっていないようだが、わざわざ説明するほどのことでもないだろう。


「ゴーレム狩りお疲れ様でした! これにて依頼達成です。こちらは依頼と魔物の素材を合わせた報酬です」


 受付嬢から30万ジュエルが渡された。

 これだけのお金があれば普通の村人家族が一ヶ月暮らせるので、Eランク冒険者の報酬としては破格の報酬である。


 もちろんセリアと山分けすることにはなるが、それでも一人当たり15万ジュエル。

 これでも一人身の村人なら一ヶ月生活できる金額である。


 大人数で参加することが一般的なゴーレムを二人で倒したので、かなり割りの良い仕事になった。


 討伐証明部位以外の素材を持ち帰れなければ20万ジュエル程度まで報酬が下がってしまう。

 仮に10人で依頼を達成すれば一人頭2万ジュエル。危険を伴う割にはあまり美味しくない仕事ということになるのだ。


「そして、この依頼でギルドポイントが70ポイント加算します。……おめでとうございます! Dランク冒険者にランクアップです!」


「え、もう上がったのか!?」


 俺はやや驚きつつも受付嬢から預けていたギルドカードを受け取る。

 そこにはしっかりとDランクと刻まれていた。


「その通りです。私も驚きました……。私もそれなりに長くこの仕事をしていますが、EランクからDランクとはいえ、たった2件の依頼でランクアップする方は初めてです」


 依頼達成時に得られるギルドポイントは、依頼の難易度によって上下する。


 俺たちが受注していた依頼はEランク向けのものとしては難易度が高いものだったので、これだけ早くランクアップができたのだろう。


「ちょ、ちょっと待ってよ。あなたたちが受けてた依頼って、ゴーレム狩りなの……? 二人で倒したってことなの?」


 俺と受付嬢の会話を聞いていたのだろうユキナが驚いていた。


「ああ、そうだぞ」


「ゴーレムってEランク冒険者の場合は最低でも10人、Dランクの冒険者でも5人は必要な依頼じゃない。それを二人……どういうことなの……!?」


「どうと言われても、文字通りの意味でしかないんだがな……」


 これ以上にどう説明すればユキナが納得してくれるのかわからない。

 俺は事実しか話していないのだ。


「アルス、早めにランクが上がって良かったですね! 今日の夕食はご馳走にしますか?」


 セリアは俺以上にランクが上がったことを喜んでいるようだった。


「そうだな。まあ、いつもの食堂だけど一品くらい増やしてもいいかもしれないな」


「いいですね〜!」


「まあ、その前に昼ごはんだけどな」


 朝イチでゴーレム狩りに出たものの、依頼達成までそれほど時間は掛からなかった。

 そのためまだ昼過ぎ。


 夕食よりも前に昼食のことを考えるべきだろう。


「昼ごはんを食べたら今日はもう一件くらい依頼をこなそう。まだお金が心許ないしな」


 そう言って、俺は外に出ようとギルドの扉を開けた。


「あれ? ユキナどうしたのですか?」


 俺たちが扉の外に出たというのにユキナが一緒に出てこないので、セリアが声をかけた。


「え?」


「一緒にお昼ご飯食べましょうよ〜!」


「でも、私お金が……」


 ユキナはギルドカードと一緒に財布を失くしてしまい、一文無しになっている。


「ええええ!? そんなこと気にしなくていいですよ〜! ですよね、アルス!」


「その通りだ。さっき『まだ見つからないのかしら』って言ってただろ。ということは、少なくとも失くしたのは昨日以前。それから何も食べていないのだとしたら、食べてもらわないと困る」


 一時的とはいえ、一緒に冒険をする仲間なのだ。

 栄養状態まで気を配るのは当たり前のことだろう。


 ……まあ、勇者パーティでは必ずしもそうではなかったので当たり前ではないのかもしれないが、少なくとも俺はそうするべきだと思っている。


「ちゃんと活躍してくれないとお礼にならないだろ? だからユキナが気にする必要は何もない」


「あ、ありがとう……。また借りが増えちゃったわね」


 そもそも冒険者は不安定な職業だし、ときには助け合うことも必要だろう。

 だからこの程度のことを借りなんて思う必要はないのだが……。


 まあ、いいか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る