第二章

第26話:付与魔法使いは剣を得る

 ナルドたちと別れ、少し人通りが少ない場所まで来た時だった。


「あれ、そういえばシルフィちゃんが見当たりませんね?」


「そういえばそうだな……迷子になったか?」


 思い返せば、ベルガルム村までパタパタと俺の肩の近くを飛んでいたシルフィの姿がナルドたちと遭遇した辺りから見えなくなっていた気がする。


 さすがに強力な精霊が一人でいたとしても大事になるとは思わないが、心配なので来た道を戻ろうかと思った時だった。


「パパ、ママ、ここだよ〜!」


 シュンっと七色の光を放ってシルフィが虚空から現れた。


「わっ、どこに隠れてたんですか!?」


「精霊界だよ〜!」


 ふむ……精霊界。初めて聞く言葉ではあるが、これと似たものを俺は知っている。


「精霊界っていうのは……こんな風にこの世界とは切り離された高次元空間ということなのか?」


 俺はシルフィの前の前で付与魔法を使い、アイテムスロットを開きながら尋ねた。


「それ、多分同じだよ! なんで精霊じゃないのにそれできるの!? っていうか誰でも入れるの!?」


 シルフィがアイテムスロットの内部を行ったりきたりしながらめちゃくちゃ驚いていた。


「同じなのか……。人が入って大丈夫なのかわからないから倉庫代わりにしかしてなかったんだが、多分誰でも入れるんだろうな」


「パパすごい……! さすがはシルフィのパパだよ!」


「そ、そうか……?」


 褒められて悪い気はしないのだが、よく理解せずに使っていただけに凄いことなのかがピンとこないというのが正直なところだった。


「シルフィちゃんにもアルスの凄さが伝わって良かったです!」


 俺がやや微妙な心境なのとは裏腹に、なぜかセリアの方もニコニコしていたのだった。


 ◇


「む、もう持ってきよったのか……!?」


 俺たちがガイルの工房に到着すると、ガイルは雷にでも打たれたかのように驚いていた。


 ガイルが驚くのも無理はない。シルフィが精霊石を提供してくれなかったらこれほどまでに早く二つも集めてくるのは難しかっただろう。


「ああ、これだ」


 俺はアイテムスロットから手のひらサイズの精霊石を二つ取り出した。


「見た目ではわかりにくいが、結構重い。注意して持ってくれ」


「うむ、わかっておる」


 俺はガイルに重さには注意するように伝え、精霊石を渡した。

 伝えたのだが——


「うおっ! こ、こりゃ重いわい!」


 危うく落としかけてしまうガイルである。

 10キロほどなので問題なく持つことはできるはずなのだが、想定していたより大きな重さを感じると人はそれに対応できない。


 俺がシルフィから精霊石を受け取った時と同じ構図の再来だった。


「こ、これほどの重さの精霊石をよく集めてきたもんじゃわい……」


「まあ、運が良かったからな」


「運も実力のうちじゃ。ようし、これなら思っていたよりも強い剣が作れそうじゃな! 待っておれ、すぐに取り掛かる」


「ああ、頼んだ」


 ちなみに、シルフィは俺たち以外の人がいる場所では精霊界へ移動し、隠れている。

 精霊は人里離れた森の中で生活しているイメージがあるし、あまり姿を見られたくないのかもしれない。


「剣を打つ間、こっちでお茶でも飲んでなよ〜!」


 シャロットがそう提案してくれた。


 ガイルをふと見ると、極限の集中状態に入っているように見える。

 俺たちが周りにいない方が良さそうだ。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 俺たちは剣作りをガイルに一任し、シャロットと一緒に奥の建物へ移動し、剣ができるまでの時間を過ごした。


 約二時間後——


「できたわい、完璧じゃ!」


 そう言いながら、二本の剣を持ってガイルが工房から出てきた。


「本当に早いな……」


 シャロットがさっき話していたことによれば、普通の鍛治師ならもっと時間がかかるものなのだが、ガイルの場合は非常に手際が良いため早く作れるのだそうだ。


 鍛治師も魔法のような技術——魔力を使った剣作りをしているため、スピードに関しては腕次第といったところだ。


 『魔力』という存在が知られていなかった太古の昔は剣作りに何十日と時間をかけていたそうだが、今では剣作りを専門とする鍛治師でそれほどの時間をかけることはない。


 そうだとしても、ガイルの場合は早すぎるのだが……。


「ワシは腕には自信があるからな。ほれ、どうじゃ」


 ガイルから渡された剣を受け取る。

 ずしっとした重さがあるが、さっきの精霊石が組み込まれている割にはそこまでの重みを感じない。


 精霊石を直接剣に埋め込むのではなく、精霊石に詰まっている精霊魔力を利用して剣の攻撃力を引き上げているから、質量を感じさせないのだろう。


「早速試し斬りをしたい……と思ったが、この剣に相応しい的がなさそうだな……」


「そうじゃろうな。まあ、明日にでも試してみれば良いじゃろう」


「ああ、そうさせてもらうよ。ありがとうな」


「礼には及ばん。ワシもこれほどの剣を作れればこの生涯に悔いはない。この二本の剣は文句なしにワシの最高傑作じゃ」


 名工ガイルが自信を持って最高傑作と言える剣。

 俺の期待以上の品質に仕上がっていそうだ。


「よし、じゃあ今日のところは早く宿に戻って、明日は朝イチでギルドに行こう」


「そうですね! 私も早く使ってみたいです!」


 俺とセリアは一本ずつ剣を携え、ガイルの工房を後にした。

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