第21話:付与魔法使いは約束する

 ガイルに連れられ、建物の中へ。

 入り口から入ってすぐは工房スペースになっており、奥には住居スペースがあった。


 工房には煙突に繋がっている大きな溶鉱炉があり、その近くにはハンマーなどの工具が無造作に置かれていた。

 その横を通り、奥の住居スペースへ。


「まあ楽にするのじゃ」


 ガイルにそう言われたので、俺たちは部屋にある椅子に座り、テーブルを挟んでガイルと向かい合う形になった。


「お茶をどうぞ」


「ありがとう」


「ありがとうございます!」


 数分後、シャロットがお茶を用意してくれた。

 小さいのに、なかなかよくできた子だなと感心する。


 シャロットがガイルの隣に座ると、ガイルが口を開いた。


「ワシの孫の怪我を治してくれたんじゃとな。その節は本当に感謝しているのじゃ」


「いえいえ」


「どうやら、おぬしらは悪い人間ではなさそうじゃ。……ふむ、これならワシが剣を打っても良さそうじゃ」


「ほ、本当か……!?」


 まさかこんな展開になるとは予想できなかったが、それなら本当にありがたい。


「ガイルお爺ちゃんは曲がった人間に剣を使わせたくないんだよ〜。半端な冒険者はすぐに悪さに使うから作らないんだよね?」


「うむ、まさしくその通りじゃ」


「お兄ちゃんたちは悪さしない、大丈夫、優しい人。私が保証する〜!」


 シャロットは親指を立ててガイルを説得してくれた。

 どうやら、シャロットを助けたことで、いつの間にか俺たちが悪い冒険者じゃないことの証明ができていたらしい。


「しかしじゃ、そうは言っても力が足りていなければ悪さをする冒険者に剣を取られてしまうやもしれぬ」


「それは、そうだな……」


 名工ガイルが作った剣というブランドは隠したとしても、その性能までもを隠すことはできない。

 剣に限らないが、性能の良い装備はタチの悪い不良冒険者や盗賊に狙われ、場合によっては奪われることも少なくないのだ。


「そこでワシはあることを思いついたのじゃ。この条件を飲むことができるのなら、ワシは剣を打とう」


「条件?」


「なに、簡単なことじゃ。おぬし……えーと、名前なんじゃったかの」


 そういえば、まだ名前を名乗ってなかったな……。

 特段隠すつもりがあったわけではないので、俺は名前を名乗ることにした。


「アルス・フォルレーゼだ」


「アルスというのか。それでじゃ、アルス。おぬしはなかなか剣の腕前が立つように見えたが、違うかの?」


「それほど得意だとは思っていないが……」


 俺がそう答えると、ガイルは愉快そうに笑った。


「フハハ! 剣の達人は皆そう言うのじゃ。どうやらワシの目に狂いはなかったようじゃの」


「いや、本当に大したことないぞ? 今の時点なら確かにセリアより強いと思うが、ポテンシャルは明らかにセリアが上だ。いずれ追い抜かされるだろうし、追い抜かしてくれることを願ってる」


「そう、そこがポイントなのじゃ!」


 ガイルは、ビシッと俺に人差し指を向けた。

 何がポイントなんだ……?


「アルス、おぬしが横のお嬢ちゃん……セリアを鍛え抜くというのが条件じゃ。おぬしと同程度以上にな」


「な、なるほど……」


 条件と言われたのでどんな無理難題を求められるのかと思いきや、大したことではなかった。

 いや、十分に時間がかるし難しいことではあるのだが——


「もともとそうしようと思っていたからな。何の問題もないよ」


 俺は即答した。

 セリアにはセンスがあるし、近いうちに剣の腕では俺を超えてくれるはずだ。


「これで一つ目の条件はクリアじゃな」


「まだあるのか……?」


「ワシは条件が一つとは一言も言っておらん。二つ目の条件——それはじゃな……」


 ごくり。

 俺は固唾を飲んだ。


「おぬしもワシが打った剣を使うのじゃ」


「え……?」


「何かおかしいことを言ったかの?」


「い、いやおかしなことは言っていないが……どう言うことだ?」


 セリアとは別に、俺用にもう一本剣を打つということはわかる。

 しかし、何のためにそんなことをするんだ? 一本で良いものを二本用意する理由がさっぱりわからない。


「アルス、おぬしにはビビッときたのじゃ。ワシが今まで見た中で最も優れた剣士だと思っておる」


「俺は付与魔法師だぞ……?」


「そんなもん関係ないわい。清らかで強い剣士にワシの剣を使ってもらえれば本望なのじゃ」


 なぜか過大評価してくれているようだが、俺は攻撃をする際に剣だけを使うわけではない。

 それを剣士と言われると、やや違うような感覚があるのだが、ガイルは特に気にしていないようだ。


 もちろん、俺としても伝説の名工に剣を打ってもらえるというのなら本当にありがたい。

 願ったり叶ったりだ。


「俺としてはまったく断る理由がない。もちろん約束しよう。ただ、二本打ってもらうのだとして予算がな……」


 俺たちの手持ち——というか、正確にはセリアの所持金は100万ジュエルしかない。


「予算はどのくらいで考えてたのじゃ?」


「予算というか、手持ちは100万ジュエルだ。足りないようなら稼ごうと思ってたんだが、二本となるとさすがに時間がかかりそうだ」


「何じゃ、そんなに用意しておったのか」


 ガイルは嘆息する。

 そんなに……とはどういうことだろう。


「ワシは金のために剣を打っているわけではないのじゃ。もちろん生活するため、工房を維持するために金は要るんじゃが、それだけあれば大丈夫じゃ。ワシに任せておけ」


「え、これで良いのか……?」


 名工ガイルの剣を二本。

 それがたった100万ジュエルとは……少しばかりサービスしすぎではないだろうか……。


「しかし……そうじゃな。最強の剣を作るとなれば、最強の素材が欲しいところじゃな。おぬしら、金がないのなら素材を自分で採ってくる気はあるかの?」

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