第20話:付与魔法使いはお願いする

 ◇


 翌日。

 昨日冒険者に書いてもらった簡易な地図を頼りにガイルの工房を探していた。


「この辺なんだよな」


 ベルガルム村の南東。

 ギルド周辺や商業地区などと比較すると、人も建物も少ない。


 ぽつぽつと建物が点在している中から、目的地の工房を探した。


「あれじゃないですか? 石にガイル工房って彫ってあります!」


 セリアが指差す方向には、小さな趣のある古屋がポツンと立っていた。

 石の看板があり、そこにガイル工房と彫ってあった。


「あそこで間違いなさそうだな」


 俺たちは工房の扉の前に立ち、扉を叩いた。

 すると物音が鳴り、しばらくすると扉が開いた。


 出てきたのは、背の低い髭面の爺さんだった。

 俺が知るドワーフ族の男性の特徴に一致する。この人が工房の主——ガイルで間違いなさそうだ。


「いきなりの訪ねてすまない。剣の名工がここにいると聞いて来たんだ」


「ふむ……またワシ目当てか」


 ガイルがうんざりした様子でため息をついた。

 俺の他にも似たようなことを言ってくる冒険者が多数いるのだろう。


「ああ、強い剣を作ってほしくてな」


「ふん、お前がワシの剣を使うに相応しいと?」


 なるほど。ガイルの工房のことを話してくれた冒険者が言っていた通り、職人気質な爺さんのようだ。

 持ち主を選ぶというわけか。


「いや、俺の剣を作って欲しいというわけではない。ここにいるセリアのために作って欲しいんだ」


 そう言って、俺はセリアを紹介した。


「わ、私がセリアです」


「ぬ? お前じゃないのか。まあ、相応しい者が使うのならワシは誰でも良いんじゃが」


 そう言いながら、ガイルはセリアを値踏みするように眺めた。

 そして——


「ふむ、ダメじゃな」


 ガイルは端的にそう答えた。


「理由を教えてもらってもいいか? こう見えて、セリアはユニークジョブと呼ばれる『剣聖』の持ち主だ。ポテンシャルは十分に秘めていると思うが……」


「ポテンシャルを秘めているから何だというのだ。ワシの剣はそう安売りするものではない。ポテンシャルがあるというなら実力がついてからまた来ればいいじゃろう! ワシは半端な冒険者に剣を打つ気などない!』


 ガイルは腕を組み、険しい表情をした。

 どうやら、今のセリアの実力が見合っていないと言いたいらしい。


「……まあ、それなら仕方ないな。無理を言って悪かった」


 もともと名工ガイルがそう簡単に剣を一本打ってくれるとは思っていなかった。

 顔を覚えてもらい、しっかりと実力をつけてからトライしても遅くはないだろう。


 欲を言えば、今のセリアにはややオーバースペックな武器を持たせて成長速度を引き上げたかったが……。


「私、頑張りますから! 剣に負けないような実力を身につけて、いつか剣を打ってもらいますから!」


 セリアもまだ自分の実力が足りていないことは十分自覚している。

 この感じなら、近いうちになんとかなるだろう。


「ふむ、お前らは断られたからといって金で買い叩こうとしないのじゃな……」


 そんな俺たち二人を見て、ガイルは興味深そうな顔をしていた。


「金で叩いて打ってくれるような人ではないだろうと思ってるからな。それに、何より金で買い叩けるほどの大金を持ち合わせていない」


「なるほどの。まあ結論は変わらん。出直してくるのじゃ」


「ああ、楽しみにしていてくれ。時間を取らせて失礼したな」


 そう言って、俺たちは一礼した。

 剣を打ってもらうことは諦め、ガイルの工房を離れようとしたその時だった。


「あれれ〜? またお爺ちゃん冒険者の人を追い返してる〜!」


 12歳くらいの見知らぬ女の子——ではなかった。

 一度だけ会ったことがある。


 昨日、俺たちが宿へ帰る途中に冒険者と衝突して怪我をしてしまった女の子だ。

 俺がすぐに治療したおかげで、何事もなく元気に歩けているようで良かった。


 女の子の方も俺たちのことを覚えていたらしく、目が合うと俺たちを思い出したようだった。


「ああ〜! 昨日の冒険者の人! 昨日は本当にありがとう〜! おかげで全然痛くないよ!」


「そうか、それは良かった」


 俺たちがそんなやりとりをしていると——


「シャロットや、この二人は知り合いだったのかの……?」


「知り合いといえば知り合い……? 昨日、怪我をしたところを助けてもらったの〜!」


「ふむ、そうじゃったのか。シャロットが世話になったようじゃの」


「いえいえ、べつに大したことは……」


 一瞬で付与魔法をかけて治癒しただけなので、本当に大したことはしていないのだ。

 同じことをやれと言われれば今すぐこの場でできるだろう。


「ううん、すごかったよ〜! 助けてくれなかったら今日も絶対痛かった!」


「ふむふむ、そうじゃったか。……おぬしら、まあ上がっていかんか。剣のことも前向きに検討しよう」


「え? それはありがたいが……」


 どうして急に風向きが変わったんだ?

 どうやらこのシャロットという子が何か関係ありそうな気配がするが……。

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