第15話:付与魔法使いは指導する
「魔鳥駆除の依頼……ですか?」
「そうだ。バッチリだろ?」
魔鳥というのは、鳥型の魔物全般を指す。
空を飛ぶ上に知能が高い魔鳥には行商人、冒険者問わず悩まされているため、報酬も他の討伐依頼に比べるとやや高い。
「でも、この依頼だとまた私はあまり役に立てそうにないですね……」
しょぼんとするセリア。
なぜ役に立たないと思うのだろう……?
「何言ってるんだ? 今回の依頼は基本的にセリアに戦ってもらおうと思ってたんだが」
魔王討伐を目指す上で、セリアの強化は避けて通れない。
この魔鳥討伐の依頼はそこそこ要求される能力が高く、セリアにとってはやや格上の敵になる。格上との戦闘の方が経験値を獲得しやすいし、慎重に戦えば問題なく勝てる相手。そのためちょうど良いと思ったのだ。
「えええええええ!? わ、私じゃ無理ですよ! 私、剣しか使えないんですよ!? 空を飛ぶ魔鳥に攻撃できませんし……」
そういえば、セリアは剣聖だっけ。
剣聖は剣のスペシャリストだが——
「なんだ、剣では空を飛ぶ敵を倒せないと思ってるのか?」
「当たり前じゃないですか!? 攻撃が当たりませんし、常識的に考えて無理だと思います」
常識が何だと言うのだろうか。
俺はかねてから常識とは壊すために存在しているものだとばかり思っている。
「なるほど、大丈夫だ。俺を信じてくれ。今日中に空飛ぶ敵も倒せるように教えるよ」
「そんなことができるのですか……?」
「少なくとも俺はできるぞ。というか、空飛ぶ敵に対応できないのは結構大変だろ……」
俺はセリアを説得し、ギルドの受付へ。
無事に依頼の受注を完了させ、村の外に出た。
◇
依頼書に書かれた場所に到着した。
ベルガルム村の南に位置する227番道路。
様々な村へ繋がる重要な道路ゆえに、魔鳥駆除は大切になる。
「セリア、まずは俺が手本を見せるよ。ちょっと剣を貸してくれるか?」
「どうぞ」
「ありがとう」
俺はセリアから剣を借り、空を飛ぶ一体の魔鳥に狙いを定めた。
「剣に魔力を流して、圧縮。振る瞬間に増幅させるイメージで発散——」
これは、付与魔法は使っていない。
魔力を扱える者なら誰にでもできる技術だ。
なぜか勇者パーティの面々ですら使っていないのが不思議なくらいなのだが。
「す、すごいです……!」
刃は当然空を飛ぶ魔鳥に届くことはない。
しかし、俺が剣を振った瞬間。
ドガアアアアアアンンンンッッッッ!!!!
発散された魔力が剣の形をとり、魔鳥に飛んでいき着弾したのだった。
魔鳥の身体は真っ二つになり、その破片は魔力が触れたことにより爆散した。
「——と、まあこんなところだ。簡単だろ?」
「ど、どうすればそんなことができるのですか……」
ふーむ、一度見ただけではわからないか。
「ポイントは肩の力を抜いて、魔力がスムーズに発散するように振ることだな」
「こ、こうですか?」
ぶんぶんとセリアが剣を振る。
その様子は可愛らしいのだが、微妙にコツを掴めていなかった。
「そうだな……ちょっと、俺と一緒に剣を振ってみよう」
そう言って、俺はセリアの背後に回り込み、剣を握るセリアの手に俺の手を重ねた。
「……っ!」
セリアが身体をビクンとさせた。
なぜか顔を赤らめている。
よくわからない反応だが、剣を振るのに特に支障はないだろう。
「どうした?」
「い、いえ……何でも」
「そうか、ならいいんだが」
俺はセリアと呼吸を合わせ、セリアのアシストに努めた。
剣に十分な魔力が充填されたことを確認し、一緒に剣を振る——
「今のタイミングだ!」
「はい!」
俺の指示に従って、セリアが魔力を発散する。
そうすることで——
「で、できました!!」
無事に成功したようだった。
一度の成功体験は大きい。まだ安定して技を出すのは難しいだろうが、もう一人でもできるはずだ。
「今度はその調子で一人でできるように頑張ってみよう」
「わかりました!」
セリアは俺との共同作業を思い出すような素振りで、空を飛ぶ魔鳥に狙いを定めて剣を振る。
だが——
すかっ!
「だ、ダメでした……」
「ま、まあ良い線はいってたと思うぞ。その調子だ」
「はい! ありがとうございます!」
それから練習を重ね、セリアは俺が教えた技を自力で使えるようになり、回を重ねるごとに成功確率も上がってきた。
「あと一体で依頼も終わりだな」
「はぁ、はぁ……私、結構頑張りました」
「お疲れ様。でも、村の外では何が起こるかわからない。気を抜かずに最後まで頑張ろう」
「は、はい!」
もし万が一何か危ないことがあれば助けるつもりだったのだが、今のところ危ないこともなく依頼を終えられそうだ。
その時だった。
「あの、アルス……魔鳥が逃げていきます……」
「なんだって……? いくら賢い魔物とはいえ、セリアを恐れて逃げたというのもなんか変だな……」
しかし実際に魔鳥たちは潮が引くように四散して行ったのだった。
ただし、ある方向を除いて。
「アルス! あれは何でしょうか!?」
魔鳥たちがあの方向だけを避けて逃げていった理由が、まさにそれだと確信した。
大型の空飛ぶ魔物がこちらに急接近している。
「ワイバーン……だな」
「ワイバーンって……そんな……どうしましょう!?」
なぜかセリアは焦っているようだったので、俺は肩を竦めた。
「どうするって、最後の一匹が向こうから来てくれたんだぞ? 良かったじゃないか」
「も、もしかしてあれを私に倒せと!?」
「その通りだ。もうできるはずだぞ」
「ええええええええ!?」
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