第16話:付与魔法使いは見守る
何を驚く必要があるのだろうか?
俺が教えた剣戟は、剣の攻撃力と魔力による攻撃力を足し算する。
さっきまでセリアが倒していた魔鳥は全て一撃で倒せていたし、俺が見た限りは完全なオーバーキル。
今のセリアならワイバーンくらいの魔物なら十分に倒せる実力があるはずだ。
「騙されたと思ってやってみろって。新しく覚えた技で攻撃力は足りてるし、魔鳥を倒したことで結構な経験値も入ってるだろう。心配することはないよ」
「アルスがそう言うなら……やってみます」
セリアは深呼吸し、それから剣を構えた。
ワイバーンはセリアを睨み、ブレスを吐こうとする。
ガウルルルル——!!
ブレスが放たれた瞬間、セリアの剣戟が繰り出された。
剣の形をした魔力弾が放出され、ワイバーンに向けて飛んでいく。
途中、ブレスと剣が衝突するが——
ザンッ————!!
ブレスを斬り裂き、ワイバーンに向けて一直線で飛んでいく。
剣がワイバーンの弱点である胸部に衝突。爆発し、心臓を貫いた——
魔鳥を倒したときは、あまりに脆すぎて討伐証明部位になる硬い爪しか残らなかったが、ワイバーンは強かった。
一撃で絶命こそしたものの、その素材はほぼ残ったままだった。
ワイバーンの素材は希少性が高いため、爪や牙、鱗に至るまで様々なものが高価で取引されている。
丸ごと持ち帰れればまとまったお金になることだろう。
「わ、私……本当に倒せました」
「言った通りだっただろ?」
「アルスの指導のおかげです!」
一人でワイバーンを倒しきったというのに、セリアは倒せたことが信じられないとでも言いたそうな顔をしていた。
「う〜ん、俺はやり方を教えただけだぞ。吸収して自分のものにしたのはセリア自身なんだから、もっと自信を持っていい」
「わ、わかりました……!」
わかってくれたようで何よりである。
「さて、じゃあ魔物も片付いたことだし、村に戻るか」
俺はアイテムスロットにワイバーンを収納し、セリアとともに村を目指した。
◇
ベルガルム村のギルドに帰還したのは、昼過ぎだった。
「依頼の達成報告をしたいんだが」
暇そうにしていたいつもの受付嬢に声をかけた。
「えっ、もう戻られたんですか〜! やっぱりアルスさんは早いですね……! 頼りになります」
「んー、俺は今日は一切戦ってないけどな?」
「……? どういうことでしょうか?」
「ただ単にセリアについて行っただけだ」
俺の後ろからセリアがちょこんと顔を出す。
「セリアが剣で魔鳥を倒したのを後ろから見てただけだ」
俺がそのように説明すると、受付嬢は呆気に取られたような顔をしていた。
「えーと、剣で魔鳥を……ですか? アルスさんが魔法で魔鳥を倒したのではなく、ですよね……?」
「その通りだ」
俺の説明が分かりにくかったのだろうか?
なるべく簡潔に話したつもりだったのだが……。
「アルスにすごい技を教えてもらったのです」
「な、なるほど……そういうことですか!」
あれ? なんでセリアの説明だと納得するんだ……?
まったく、わけがわからない。
「セリアさんはもともとポテンシャルを秘めている方ではありますが、なるほど……アルスさんは指導力にも長けているのですね」
なぜか、セリアを立てるつもりが俺が評価されているのはなぜなんだ……?
俺は何もしてないのに……。
「そうです! アルスはすごいのです!」
「なるほど、よく分かりました!」
セリアと受付嬢の間でなぜか盛り上がり、俺は置いてけぼりになってしまったのだった。
一通り俺の話が続いた後、本来の事務手続きの話に移った。
「それでは素材を確認しますね。お手数をおかけしますが、このカウンターの上に置いていただけますか」
「ああ」
俺は麻袋からまとめて魔鳥の討伐証明素材を取り出した。
「ひい、ふう、みい……あれ? 一つ素材が足りないような……数え間違いでしょうか」
「いや、一つ足りないはずだ。実は、もう一つ持ち帰ったのは大きすぎてカウンターの上に乗せられなくてな」
そう言いながら、俺はアイテムスロットからワイバーンを取り出した。
ギルドの内部はそこそこ広めなのだが、こいつが一匹いるだけで狭くなってしまったような圧迫感を感じる。
「な、な、な、なんですかこれは!? し、しかもどこから取り出したんですか!?」
そういえば、セリアも初めてアイテムスロットを見た時は驚いていたな。
しかしこの場合、ワイバーンに驚いているのかアイテムスロットに驚いているのかがよくわからないのだが……。
「まあ、話すと長くなるんだが……無限に物を収納できる付与魔法に、セリアが倒したワイバーンを収納してここに持ってきたって感じだな」
「な、なるほど……って、これ倒したのセリアさんなんですか!?」
「ああ、そんなに驚くことか?」
「そりゃそうですよ! ワイバーンって魔鳥の中で最も凶暴で強い魔物なんですから! ワイバーンが出たとなったらBランク以上の冒険者が協力して討伐に向かうものなんです!」
「そ、そんなやばいやつだったのか……」
勇者パーティ時代はこのくらいの魔物は普通に倒していたので、感覚がズレてしまっていたらしい。
大したことがないと思っていた勇者パーティだが、世間的に見ればなかなか強かったのかもしれないな。
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