第9話:付与魔法使いは帰還する
◇
セリアに俺の正体がバレるだけでなく、俺と一緒についてくる形でベルガルム村に帰還した。
冒険者ギルドへの道中をセリアと横並びで歩いている。
「あれ? そういえばアルス様は採集依頼の試験でイスタル森林に来てたんですよね?」
「ん、そうだが?」
俺に与えられた試験依頼は、『活力草』を20本集めてこいというもの。
到着して早々に集め終わり、その帰り道にセリアを助けて今に至る——という状況である。
「活力草って手のひらくらいあると思うのですが……どこに収納したのですか? かなり軽装備ですし……」
「ああ、そういうことか」
セリアは俺が本来の目的である活力草をどこかに忘れていないか心配してくれているのだろう。
確かに、完全に手ぶらなので一目見ただけでは心配されるのも無理はないのかもしれない。
「ほら、ここにちゃんと20本ある」
俺は異空間へ繋がる幾何学模様——アイテムスロットを開き、そこから活力草を20本取り出して見せた。
「えええええええ……っ! す、すごいです……! ど、どうやってるんですか……!?」
俺は付与魔法を使うことで任意の場所に異空間へ繋がるゲートを開くことができる。
この異空間はこの世界とは異なった次元に存在しているらしく、どんな巨大なものでも大量に収納することができることを確認している。
さらにこの異空間には時間という概念がないらしく、常に新鮮な状態で保管することができるのだ。
これは、勇者パーティでも秘密にしていたものだ。
このような能力があることがわかれば確実に荷物持ちをさせられていたことだろう。
俺だってパーティの役に立ちたいという思いはあったから、頼まれれば喜んで引き受けただろう。しかし、この異空間がどのような仕組みなのかよくわからないまま使っているので、中身が消失したとしても責任を持てない。
俺以外にゲートを開くことができなければ、俺が死ぬと同時に勇者パーティはあらゆるものを失ってしまう。
そんな大きなリスクを負うことはできなかった。
もちろん説明した上で賢く使えれば良いのだが、あの勇者パーティはリーダーのナルドをはじめ、ちょっとばかり頭が弱かったため理解して上手く運用することは難しいと思ったのだ。
セリアは俺の言うことなら聞いてくれるだろうし、無茶なことは言ってこないと確信したから見せたにすぎない。
「付与魔法で異次元へのゲートを開いたんだ。ただ、このゲートの先がどうなってるのかは俺もよくわからない。間違って入らないように注意してくれよ?」
「わ、わかりました……! さすがはアルス様です!」
そんなことを話しているうちに、冒険者ギルドの前についた。
ギルドの扉の前で、ふと立ち止まった。
「……? どうしたのですか?」
「セリア、俺はもう勇者じゃないんだ。アルスって呼んでくれ」
かつては勇者だったかもしれないが、今はもう違う。
これは正体を隠したいというよりも、過去の俺を断ち切りたいという思いからだった。
「アルス……わかりました!」
俺の気持ちを察してくれたのか、セリアは特に何か聞くこともなく受け入れてくれたようだった。
「ありがとな」
冒険者ギルドの扉を開け、報告のため受付へ向かう。
「納品をしたいんだが」
「ええ……今戻られたんですか……!?」
「ん、遅かったか?」
確かに、セリアが魔物に襲われているというアクシデントがなければもっと早く納品できていた。
意図せずではあるが、前の試験で俺への期待値を上げまくってしまったからな。
これでも普通よりは早いと思うのだが、このような反応になってしまうのも無理はないか。
「ち、違います! 逆です! 早すぎということです!」
「ああ、そっちなのか」
「ギルドを出てから一時間で終えられた方は前代未聞ですよ……」
まあ、勇者を辞めた人間が冒険者として登録しなおす事例は聞いたことがないからな。
もともと冒険者としても十分戦える状態で試験を受けたのだ。
こんなものだろう。
「それよりも、納品をしたいんだが」
そう言って、俺は活力草をカウンターの上に並べていく。
「確かにニ十本ありますね! しかも採れたばかりで新鮮です。どこかで購入したものなどではないようですね」
ああ、なるほど。
活力草の効能自体は多少時間が経っても失われることはないが、時間がすぎるとややシナシナになってしまう。
不正をしていないかの確認のため五時間という時間制限があったのか。
「ついでに買い取ってほしいんだが……」
と言いながら、アイテムスロットから大量の魔物を取り出した。
カウンターの上に乗り切らないため、床の上に山積みにした。
「な、なんですかこれ——!?」
「活力草を集める時に邪魔してきた魔物だ。買い取ってくれると言ってたからな」
残念ながら、セリアを襲った魔物たちは燃やし尽くしてしまったため、持ち帰れなかった。とはいえ十分な数だろう。
「た、確か言いましたが本当に持ち帰られるとは……というか、今の魔法はなんです!?」
「まあ、企業秘密だ」
「そ、そうですか……いえ、それにしても魔物を丸ごと持ち帰るとは思いませんでした……」
魔物の素材は勇者パーティ時代も持ち帰って売っていたことがある。
さすがの俺も全てを持ち帰る必要はないことをわかっていた。
「どれが売れる部位なのかよくわからないし、捌くのも面倒だったからこのまま持ち帰ってきたんだ。言ってくれればバラすよ」
「い、いえ……このままで買取させていただきます。本来は魔物を丸ごと持ち帰ってほしいというのが本音なのですが、なかなか難しいため一部のみで買取しているのです。全部の方が活用しやすいですし、買取金額も通常より上げさせていただきますね」
「おお、それは助かる」
バラす手間が省けたばかりか、より高く買い取ってもらえるとは……。
こんな仕組みがあれば最初から教えてくれれば良かったのにな。
「それでは、買取はもう少しお待ちいただきますが先にこちらを……」
そう言いながら、受付嬢はプレート状のものを渡してきた。
「おめでとうございます。アルスさん、冒険者試験合格です!」
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