第8話:勇者パーティは現実逃避をする

 ◇


 今朝、アルスを追い出した勇者パーティ一行は今日も魔物を狩るため、いつものようにベルガルム村を出た。

 片道一時間ほど移動し、ジュラルド丘陵についた。


 なだらかな丘が並ぶこの場所は今日のように天気が良い日にはとても景色が良い。

 アルスを追い出したことで気分が良かった勇者パーティ一行はいつも以上に活気付いていた。


「今日からは同じ労力でも手に入る経験値が大きく変わるぞ! 何せ無能を追い出したんだからな!」


「「「「「万歳!!」」」」」


 アルスを追放したことを喜ばしいと思っているのは勇者パーティのリーダーであるナルドだけでなく、他五人のパーティメンバーも同じ。

 ナルドの独断で決めたというよりも、パーティメンバーの総意により自然に決められたことだった。


「ここにポーションがある! 多少金はかかったが、しっかり回収するぞ!」


 アルスのような付与魔法師がいなくとも、街で売られているポーションを使うことで強化魔法を得ることはできる。

 もちろん、ポーションによる強化魔法が付与魔法師によるものよりやや劣ることは勇者たちも理解していたが、攻撃力はそれでも足りている——というのが彼らの認識だった。


 しかし、アルスの話を聞かなかったばかりに、重大なことを一つ見逃していた——


「な、なんか今日の魔物強くねえか……?」


 パーティメンバーの一人が呟く。

 そのように感じていたのは一人ではなかったようで……。


「だ、だよな……夜でもないのに魔物が強化されてるのか……?」


「攻撃は強いし防御力は高いし、おまけに素早くなってるぞ……!」


「回復が間に合わない! ポーションを飲んで!」


 アルスは、味方を強化するだけでなく、敵を弱体化することでもパーティに貢献していた。

 そのことを伝えようとしたが、勇者たちは聞く耳を持たなかったのだ。

 そのため、なぜ敵がこれほどまでに強いのかは知る由もない——


「き、気のせいだ! 気にするな! いつも通りやればそれでいいはずだ!!」


「し、しかし……これは……」


「うるせえ、しっかりやれ!!」


「……さーせん、まさかそんなことないですよね!!」


 明らかに普段と変わらない敵が手強くなっていても、気のせいだとして勇者パーティはアルスの貢献を信じようとしなかった。

 勇者たちの戦闘力が下がり、逆に敵がさらに手強くなってはいるものの、もともと安全マージンはしっかり取られた上で狩場に出ている。

 そのため、直ちに死ぬことはなかった。


「ふ、ふう……なんとか倒せたな。……ほらみろ、アルスなんて関係ねえんだ! まったく問題ない、続けるぞ」


 この時点で、薄々なにかがおかしいことには全員が気づいていた。

 アルスをパーティから追い出した以外には、なにも変わらないにもかかわらず、あまりにも変化が大きすぎた。


 しかし、あのような追い出し方をした手前、もはやどうすることもできなかった。

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