STAGE5

ドアを開けると、そこにはヤコブの梯子の如き階段が、上へと続いていた。

 薄く開けて覗き込むと、彼女はもう中ほどまで進んでいた。

 暫く様子を見る。

 階段の中はやはり薄暗い。

 蛍光灯の白い光だけを頼りに、彼女は階段の天辺に着き、そこで腰に着けていたポウチから『何か』を取り出す。

 ゴーグル。

 マスク。

 銃の形をしたもの。

 彼女はそれを順番に装着し、銃らしきものを構え、ドアのノブに手を掛けると、

 向こう側にゆっくりと押す。

 さんざめきと音楽、きらめき・・・・

 ドアの向こうから流れ込んできたのは、こちらとは全く無縁の華やかな音と光だった。

 彼女が何をしようとしているのか、ここまでくりゃ、嫌でも判別はつく。

 俺は外に出ようとしていた彼女の背後へと、拳銃を抜き、一気に距離を詰めた。

『動くな、俺が今あんたの背中に何を突き付けてるか分かるよな?下手に動くと碌な目に遭わんぜ』

 彼女の肩に少し力が入った。

 トリガーに指がかかりそうになる。

 だが、彼女は抵抗もせず、手に持っていた銀色のピストル型の道具を床に落とし、両手を挙げた。

 銃口を離さず、落としたものを足で踏み、踊り場の隅に滑らせてから、俺は

認可証ライセンスと、バッジを彼女の目に見えるように提示した。

『探偵なのね。貴方』

 暗闇で白い歯がにっと笑った。

『ある男性に頼まれて君の事を探してたんだ・・・・どうやら君に惚れているらしい。確かこの部屋の向こうは宝石の見本市だったよな?泥棒さん』

 彼女はまた笑った。泥棒という俺の言葉に否定もしなかった。

 黙ってこちらを向き、マスクを外す。

 彼女・・・・ミラクルレディ―・ルミ。

 いや、本名山田るみ子は、祖父の代から生粋の泥棒だった。

 マジシャンという表看板を隠れ蓑に、あちこちで盗みを働いていた。

『で、どうするの?あたし警察おまわりに突き出す?』

『一応探偵も逮捕権は持っているし、そうするべきなんだろうが、今回俺の依頼には君の逮捕は含まれちゃいない。それに今回に関しては君は未遂だからな。』

『・・・・ありがと、探偵さん。だったらその依頼人の男性に伝えといて頂戴。

私は貴方に好かれるほど、立派な女じゃありません。申し訳ないけど諦めてくださいってね』

 俺が拳銃をホルスターにしまうと、彼女は手を下ろした。

『オーケイ、いいだろう。伝えておくよ』 

 俺は踊り場の隅に蹴った、あの銀色のピストル型の道具を拾い上げ、彼女に渡す。そいつは人間の神経をほんのちょっとだけ麻痺させる、催涙ガスの一種を発射するための道具だそうだ。

『我が家の家訓なのよ。”盗みはすれど非道はせず”ってね』

 るみ子はそう言って、今度はウインクを投げかけた。

◇◇◇◇◇◇

 今回の事件はこれで終わりだ。

”いい加減にしろよ。つまらん!”

 前から何度も言ってるだろ。

 俺は自分の見たままのことしか書いていないってさ。

 勿論、依頼人の鈴村君には、正確に報告をした。

 彼はただ黙って”分かりました”そう答えただけだったな。

”ミラクルレディ・ルミ”こと、山田るみ子は相変わらず舞台に立ち、マジックを披露し続けている。

 そして鈴村君は毎晩そのステージを観に出かけているそうだ。

 彼女が泥棒稼業を辞めたかどうか・・・・その点も俺には分からない。

 以上、もうこれでいいだろ?

                               終わり


*)この物語はフィクションです。登場人物その他全ては、作者の想像の産物であります。

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ミラクルレディ・ルミ 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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