STAGE4

 今回の彼女の持ち時間は約30分。しかしルミのステージは、客を飽きさせることなく、次から次へと華麗に妙技を披露して行く。

 確かに、”ミラクル・レディ”の呼び名に恥じない。

 時間は瞬く間に過ぎた。

 彼女は万雷の拍手に送られ、深々と頭を下げ、ステージを下がっていった。

”今だ”

 俺はそう思い、ドアに近づくと外に出た。

 ショーが行われているホールから、ほんの数十歩ほど離れたところに別のドアがあり、真ん中に、

”関係者以外、出入り禁止”と赤い字で大書されたプレートが貼り付けてある。

 だが、俺はそんなものを無視して、ノブに手を掛ける。

 鍵はかかっていた。

 だが、俺にとっちゃこんなものは屁でもない。

 ウェストポーチから、銀色の針金を取り出し、真ん中の鍵穴に突っ込んで引っ掻き回す。

 ここが古いホテルで助かった。

 最新式なら電子ロックだ。

 幾ら俺でも手も足も出なかったろう。

 軽い音がして鍵が開く。

 ノブを回すと、鉄の扉は簡単に開いた。

 俺は周囲に十分気を配りつつ、中に足を踏み込んだ。

 そこは人が一人、やっとすれ違える程度の長い廊下が続いている。

 天井は薄暗く、ところどころ点滅している蛍光灯だけが頼りだった。

 このホテルはその昔、スキャンダルを恐れた芸能人や政治家、財界人が、いわば

”都会の隠れ宿”

 として使っていたんだそうで、今でもこうして建物の中に、まさかの折には気づかれずに逃げ回ることの出来る通路が設けられている。

 俺は足を忍ばせ、片側の壁に身体を付け、ゆっくりと進んで行った。

 2~30メートルほど行っただろうか。

 俺が張り付いているのと同じ壁にドアがあった。

 ここにも、

『関係者以外立入禁止』と、大きく書かれた札が貼ってある。

 すると、ドアのノブが音を立てる。

 俺は2メートルほど後退し、柱の陰に身を潜めた。

 軋みながらドアが開き、中から一人出て来た。

 

 頭にはニット帽。

 体に張り付くようなタートルネックのプルオーバーにジーンズ。

 そしてひざ下まであるブーツ。

 上から下まで紺色で統一してある。

 顔の半分を覆うくらいの細い黒縁眼鏡。

 明らかに女だ。

 だが、俺にはそれが誰だか直ぐに分かった。

 ドアを閉め、彼女は辺りを見回し、注意深く、奥へ奥へと歩を進める。

 幸い、彼女にはこちらの存在は気づかれていない。

 当り前だ。

 気配を殺して相手を追跡する訓練なら、自衛隊時代、そして探偵になってからでも、散々叩きこまれたからな。

 そこから30メートルは歩いたろうか。

 反対側の壁にまた扉があった。

 彼女はまたその前で立ち止まり、辺りを見回すと、ドアを開けた。

 どうやらそこには鍵は掛けられていないようだ。

 彼女が扉を閉め、まるでトカゲかヤモリでもあるかのように中へ消えると、俺も

 素早くドアに近づき、ノブを回し、ドアをそっと開いた。



 



 


 

 

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