STAGE3

 当然だろうが、

”ミラクルレディ・ルミ”はステージネーム・・・・つまりは芸名である。

 本名は”山田るみ子”という、極めて平凡な名前だ。

 年齢は20歳。

 家は祖父の代から3代続けてマジシャンを続けている。

 デビューは五歳。

 その頃から既に天才の呼び声も高く、あちこちのコンクールで優勝を遂げている。

 だが、不思議な事が一つだけある。

 彼女はマジック以外の仕事は一切受けないという事だ。

 あれだけの美貌なんだ。

”歌手にならないか?”

”ドラマに出ないか?”

”バラエティへ出演してくれないか?”

 成長するにつれ、そういう話は引きも切らないようだが、彼女はそれらをことごとく断り続け、ひたすらマジシャンとしてのステージのみに集中している。

 彼女だけではない。

 両親、兄姉弟、全員がステージに上がり、マジックしか披露したことがない。

 無論雑誌の取材などにも一切応じた事がない。

 所属事務所(社長と専務が両親、マネジメントも二人が担当している)に電話を入れれば、常打ちにしている”フーディーニ”のステージだけでなく、どこでも出向いてくるという。

 気になるじゃないか?

”何が”だって?

 まあ、素人には分かるまいよ。

 他人ひとが気にならないところを気にする。

 それが探偵の仕事なのさ。

 俺は毎晩のように”フーディーニ”に通いつめ、店が跳ねた後、尾行を試みてみたが、いつもあっさりと巻かれてしまう。

 流石天才マジシャンだ。

 感心している場合じゃない。

 引き受けた以上は完遂せねばならん。

 何度も付け回し、そして”今日”になった。

 ここは都内にある古いホテル。

 一流とまでは行かないが、二流の中といったところ。

 ここで、ある財団が一種のチャリティー・イベントを開催している。

 二階のホールで客を入れ、彼女の事務所総出演のマジックショーが開催されるという情報を入手した。

 どうやって調べたのかって?

 情報源の秘匿って言葉を知らんのか?

 まあいい、それで俺が今ここにいるって訳さ。

 ステージに出ているのは彼女の他、兄妹と従兄妹たちの計6名。

 それぞれが代わる代わる出演する。

 メインは勿論、ミラクルレディ・ルミ・・・・つまりは事実上彼女の為のステージのようなものだ。

 午前10時に始まり、彼女は都合4回の出演となっている。

 その間、俺は階段状になっている、一番奥で、腕を組んで見つめていた。

 仕事だと割り切ってはいるものの、流石に彼女のステージは大したものだ。

 観客を飽きさせず、華麗な手さばきで、次から次へと夢の世界を繰り広げて行く。

 俺も思わず拍手をしたくなった。

”ところで何で一番後ろにいるんだ”だって?

 それはおいおい分かるさ。




 

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