第12話 (12) 夢を持つ個性のある友達。

(12) 夢を持つ個性のある友達。


翌年、4月。入学式。

真新しい制服を着た菜月の両側には、菜月の両親と健太郎と亜紀。

「な、菜月、、、お前、カッコ良いな。可愛いな。」強面の菜月の父親、竜男が涙ぐみ、菜月と正対している。

由香里と亜紀は、明るい笑顔の菜月と、めったに見られない泣いている竜男を携帯で写真を撮りまくる。その横で笑顔で涙が溢れている健太郎。


午前中は一般的な現代国語、古文、数学、物理、化学、歴史、地理、英語など。

午後は、自分の選択したコースの専門的な授業がある。それぞれの教室へ移動し、単位取得表に講義受講証明を貰う。

菜月の選択したコースは、ファッションコース。目標は理容師。

小さい頃は由香里に連れられて美容院へ行っていたが、引き籠りや家を出た頃は、1,000円散髪のQGに行っていた。

そこで綺麗な女性理容師の一人が担当してくれる事が多く、憧れていた。


入学式の後、クラスに入る。午前中はそれぞれコースが違う者が集まり、一般的な授業だと言う説明を受ける。

一人の女の子が声を掛けて来た。

「こんにちは。私、美麗みれい。シンガー目指してるの。あなたは?」

「こんにちは。私は菜月。理容師志望なの。」

「え、美容師とかメイクじゃなくて?」

「うん、散髪屋さん。」

「ふ~ん、、、美容師だったら私が売れっ子になったら、専属になれたのに、残念ね。」

「大丈夫。美容師のやる事も全部出来る様になるつもりだから。」

「そう!、じゃ、その時はお願いね。」

「任せて。メイクも覚えるからね。」

「フフフフフっ。よろしくね!」

「うん、私もよろしく。」


「なあ、これ何て読むんだ?」

「え、どれですか?」

「これ、この漢字。」

「せき です。堰を切る様に人が押し寄せる。とか堰止めるとか使います。」

「おお~、聞いた事あるわ~。お前、偉いなあ~、、、名前は?」

久保秀則ひでのりです。」

「そうか、秀則かぁ~。俺は金子修士(しゅうじ)だ。よろしくな。」

「はい。よろしくお願いします。出席番号が並びなんですね。」

「おう。」


「ねえ、店長っ!、今夜、休み頂戴っ!」美麗が後ろの席から窓際に座る金子へ声を掛けた。

「ん?、、、ダメだっ!来週火曜日が店休日だ。それまでちゃんと出勤しろっ!」首だけ伸ばす様な仕草で、金子が大きな声で答える。

「え~、、、つまんな~いっ、、、菜月とカラオケ行きたかったのにィ~。」アヒル口になる美麗。

「学校初日から遊びに行くなっ!。」笑いながら金子、追い注意。

「ハァ~イっ。」

「店長?、、、あの人、誰?」と菜月。

「私のバイト先の店長さん。キャバクラの店長。元六本木のホストクラブNO.1」

「へえ~、、、カッコいい人だねぇ~、、、好きなの?あの人の事。」

「全然。私、今は男、興味なし!。シンガーまっしぐらっ!」

「ふ~ん。」菜月、その金子が気になり始めた。


翌週、火曜日の夕方。菜月、美麗、金子、久保の4人でカラオケに行った。

美麗の歌は、やっぱり上手かった。高い声は透き通り、低い声は重厚に聞こえる。優しく歌う事も出来るし、大きく声を張り上げる歌も上手い。

目標とする歌手はyamaだと言っていた。その人のメドレーだった。「麻痺」「Sleepless Night」「AM 3:21」などなど。

金子も歌った。ファンモンやゆず、スパイシーチョコレートなど。

菜月と久保は知っている曲があまりなく、聞く方に徹していた。

それでも菜月は今の流行りの「ヨワネハキ」を歌った。音は外れていたが、皆喜んでくれた。

久保は「香水」を歌った。恥ずかしそうにしながら、小さな声で歌った。金子に声をもっと出せっ!といじられながら歌った。


菜月、週4日のアルバイトを始めた。夕方5時から9時まで。百円均一ショップのperia。

バイトの日の夕食は亜紀と健太郎が交代で作り、先に頂く。菜月は帰宅してから頂く。亜紀が傍に居て、話を聞いてくれる。

菜月に意外な才能があった。periaでのPOP広告。ハガキ大の紙にイラストや文字を書き、商品の棚に張り付ける。

お正月から、節分、バレンタイン、ホワイトデー、桃の節句、入学式、運動会、遠足、夏休み、キャンプ、ハロウイン、クリスマスとイベントは年中有る。

ちょっと試しに書いてみたら、そこの店長に気にいられた。お客さんの評判も上々。イベント提案型の棚をメインに置き、数々のグッズと一緒にPOP広告を飾る。

良く売れた。補充するのも大変になった。嬉しい忙しさ。まわりから褒められた。にっこりしながら感謝された。

みんなが笑顔で居られるような仕事の仕方を身につければ良いんだと思えた。菜月、おとなへの階段を着実に昇っている。


北山美麗 女子中高一貫校の中退。

裕福な家庭順や試験成績による序列、学業以外の才能には評価をしない学校。見た目の美形による優劣のあるクラス。

【ここは何処?、、、】

親から言われ続けてきた法曹家へのレール。中学1年が終わるまで疑いもしなかった自分が進むべき道。

【私は誰?、、、】

お年玉で購入したタブレットでの動画の視聴が唯一の息抜き。

SNSや動画サイトのはしご。自分探し。夢への入り口の模索。

【わくわくしたり、素直に嬉しいと思える事って何?】

そのサイトで聞く、魂を揺さぶられる歌。動画の中の人たちの表情や動きを見て、思いを想像する。

楽器、歌、バレー、ダンス、勉学、、、輝こうとしている。『こんな自分だって輝けるんだ』って叫んでいる様な表情。

才能があるのか無いのか、努力出来るのか出来ないのか、その努力が報われるのか裏切られるのか、運があるのか無いのか。そんなの分かんないし、、、

動画と一緒に歌い始めた。繰り返し再生で何度も、何度も。

歌のレパートリーが増えるのと反比例し、減っていく学校での評価。

励ましの言葉から罵りへと変わる家族の会話。

そんな風に周りから見られている自分の顔を鏡で見ると、日に日に明るくなっていく。【うん、良い顔だよ、それっ】

「このままでは高等部への進級は難しいと思います。」学校からの通達。夏休みの前。

「何とかなりませんか?纏まった物は準備できますが、、、」親の悪あがき

「検討します。」

「……私、行かない、、、」初めての自己表示。そこから数カ月の親子断絶。

「この頑固者っ!好きにしなさいっ!」家族からの罵声に対する、自分自身の充実した開放感。

唯一の理解者の叔父からの応援。「面白い高校があるよ。俺、保護者、ぉK。」私と同じ、変わり者。但し、同族間の中だけの変わり者。


金子修士 中部地方の田舎都市出身。

座右の銘は「義を見てせざるは勇無きなり」

中学3年、クラス内のイジメに激昂。イジメの加害者は飲食チェーン店のオーナー兼市議会議員の息子。その息子への修二の校内暴力事件。良くあるパターン。

イジメの被害者は「頼んでいない。勝手にやった事。関係無い。イジメとは思っていない。」

高校進学の為の内申書は期待できず。地元での受け入れ可能な高校は皆無。結局、進学せず。

バイト生活を転々とする。キャバレーのボーイの時に出会った女性に誘われ、東京へ。

高級クラブでの黒服を2年続けた。

ホステスから、接客業を習う。聞き耳と手取り足とりの講習。講習代の代わりにと、元気な10代の肉体で奉仕。

ホストクラブへ転職。NO.1になる。

「お客様の、吐露する負の感情を受け止め、発散する正の感情を褒め称え、相手の気持ちを思いやり、一時いっときの夢を提供する。」心構えとした。

店を持たされた。キャバクラ、店長。経営参加。

人材募集、面接教育、混乱収拾、売上管理、資材購入、経費処理、労務管理、租税公課、宣伝広告、決算公告、環境配慮、組合会合、、、

会計士、労務士、商工会、各役所、出入り業者、従業員、、、、

【こ、こりゃ、バカじゃ勤まんねえ、、、やり直さなきゃ駄目だ。……しっかりしないと、人に迷惑掛けちまう、、、】


久保秀則 秀才。偏差値は80越え。

中学2年の時、不登校になる。引き籠り。外出はコンビニと本屋くらい。

その中学2年の夏休み、同級生で同じクラス、同じ学習塾に通う背の高い美形の娘に、「す、好きです」と告白した。

「大事な時だから、試験(高校入試)が終わるまで返事は出来ない。」と、返される。

2学期が始まった。クラス全員、告った事を知っていた。囃し立てる、ちょっかいを出す、からかう、小突かれる、物が無くなる、、、

告白したあの娘は、我、関せずを貫く。

学校で問題となった。クラスへ教育委員会の人たちが入れ替わり立ち替わり、授業の立ち会いに来る。

目的は、クラスの他の生徒へのプレッシャー。『とにかく監視だ。問題になりそうな事は未然に防げ。超有名高への進学実績を作れ。東大現役合格の候補生を守れ。』

完全なシカトが始まった。居る場所が無くなった。超有名高へのレールを死守しようとする学校と、両親の対応に不信感が募り、そして不登校。

この高校の事は、良く見ていたSNSで見かけたある記事。その人が未来学園の出身で、『あそこ、良いよ。東大入学者も年に何人もいるよ』

見学した。色んな人がいた。学校じゃ無い気がした。面白そうだった。


菜月、友達が出来た。個性豊かな4人組。

シンガーになるという目標がはっきりして、それに向かって走る美麗。

飲食店の経営者として一人前になりたいと言う金子。

東京大学へ行きたいと言い、そのレベルの学力を持つ久保。

一人の散髪屋さんとして、人に喜んで貰いたいと言う菜月。

携帯のLINEグループも作った。

4人とも出来るだけ毎日、登校したいと言う。

学校が楽しくなった。


【この学校へ入ってみて、みんな違う方向を向いている気がする。でもバラバラじゃないね。】菜月の感触。

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