第7話 (7) 麻婆豆腐。オレ、作る。


(7) 麻婆豆腐。オレ、作る。


【次は何しようかな、、、掃除機かな?洗濯でも良いか、、、洗濯機が洗うし、ジェルボール、ポンだしな。】

菜月と暮らし始めて一週間。菜月は毎日、フローリングワイパーを掛けてくれている。2,3日置きで良いよとも言えず、やって貰っている。

朝、ご飯を仕掛けてお昼に菜月が少し食べて、夜、残りを二人で食べる。

夜のおかずは、中華シリーズの酢豚や青椒肉絲、八宝菜等と、帰りにスーパーで買って帰るオードブルや煮物など。

俺が帰ってから手早く料理している。菜月が興味津々で見ているし、説明しながら作っているので今度はやって貰おうかな。

そうそう、お昼に菜月がご飯を食べる時、炊きあがったご飯全体をほぐしておいてと、手本を見せながら頼んだら、次の日からちゃんと出来ていた。


健太郎休みの日の朝。毎週月曜日としているが暦が振替休日となれば火曜日に休んでいる。

「菜月、掃除機使ってみるか?ワイパーと要領は一緒だ。」

「うん、やってみる。」顔が明るくなった。

「掃除機とワイパーは週一回ずつでも良いぞ。埃とかゴミとか汚れ、あまりないだろう。その代わりじゃ無いが、、、洗濯してみるか?」

「うん、洗濯はしてたよ。いつも同じ服だったから洗って干してすぐ着てた。」

「よし、じゃすぐにでも出来るな。早速やってみよう。お前、ちょっと着替えて来い。俺も着替えるから、寝る時用を洗おう。」

ドラム式全自動洗濯乾燥機。ジェルボール一個あれば大体間に合う。

乾燥機はめったに使わない。ベランダに干すか、ブティックハンガーでの部屋干し。


洗濯も一先ず、説明しながら俺が洗濯機をセットする。

洗濯機自体の説明は不要だが、洗濯ネットについてはしっかりと説明した。

「下着とお出かけ用の服は必ず入れなさい。生地の弱そうなものや光沢のある物は入れるようにしなさい。」

「ジーパンとか色の濃いものと白いものは別々に洗いなさい。などなど、、、詳しくはこの紙を見なさい。」

 洗濯ネット表示のある衣類

 ボタン、ファスナー、飾り、ホックなどの付いた衣類

 ヒモ付など他の衣類とからまる衣類

 ニットなど型崩れしやすい衣類

 生地が薄いブラウスやストッキングなど

以上の事が書いてある紙が洗濯機の横の壁に貼ってある。

洗濯機の上にある棚に、サイズ別に洗濯ネット入れの籠が並んで置いてある。

元カノからの指導の賜物である。菜月には言わないが。

早速洗濯し、一緒にベランダへ出て干す。ベランダにはサンダルが二つある。一つは元カノが使っていた物。


「ねえ、おじさん、元カノってどんな人?巨乳なのは分かるけど、、、」

「元カノ?、、、う~ん、どんなって、、、一言で言えば、一人で生きていける人。……かな?」

洗濯物を干しながら、そんな会話が始まった。

「何してる人?」

「書評。小説とかエッセイとか紀行文の紹介記事や売りたい本の提灯記事とか書いてる。」

「提灯記事って何?」

「この本は良いですよ~とか、ここの表現が素晴らしいとか、褒める内容の事。」

「嫌いな事とか面白くない事とかは書かないの?」

「書かない。本を売る為の記事だから、、、あっ、書くこともあるって言ってた。あの本の酷評をしてって頼まれた時とか、、、」

「酷評って?」

「ここがダメとか、これは無いっ!とか、貶す様な事。」

「頼まれたら。書くの?」

「ああ、仕事だからね、、、それもフリーだから。」

「フリー?」

「会社勤めじゃ無くて、色んな出版社とか雑誌とかから依頼が来る度に書いて、お金を貰うんだそうだ。」

「ふ~ん、、、その彼女と何処で知り合ったの?」

「俺が前に居た会社で、賃貸マンションを契約して貰ったんだけど、そこがさ、隣や上の階の音や声が聞こえすぎるくらい聞こえるんだって。

 で、仕事に集中できないって、他を探してたところに会社を替わった俺を見つけて、

 『ちょっと、君!なんとかしなさいよっ!君が嘘ついて押し付けたんでしょっ!』って凄まれちゃって、、、」

 俺、前の会社でいい加減な事してたから、どうにかしないとと思って、あちこち探して、条件とか色々聞いて、連絡して、

 何回も会って、ようやく気に入って貰える所があって、ありがとうって言われたら、、、俺、、、泣いちゃって。」

「え~!、泣いちゃったの?」

「あぁ、勝手に涙が流れて、迷惑かけて叱られて、許して貰えて、安心して、良かったって、、、それから食事に誘ったり、お酒に誘われたりして。」

「へえ~、、、でもさ、ここに一緒に住んでたんじゃないの?」

「ううん、4,5年くらいかな?それから何となく続いてて、付き合おうとか言ってなかったけどさ。そんな時、あいつのマンションで事件があって、俺ももっと広いとこって探してて、

 ここがあって、俺と一緒に住みませんか?暮らしませんか?って申し込んだら、良いよって。……それが去年の話。」

「なんで、居なくなったの?」

「おや、おや、追求しますねぇ~菜月さん。、、、中入ってお茶しようか?」

リビングへ移動する。コーヒーを入れる。菜月にはカフェオレを作る。

「あいつ、実家は秋田で、お父さんが一人暮らしで、身体悪くして、面倒見なくちゃって言って、帰ったのさ。秋田へ。」

「結婚してなかったの?」

「うん、してなかった。しよう、してくださいって言ってたんだけどね。ズルズルと、、、」

「おじさんが何でもできるのは、その人に教わったの?」

「うっ、、、分かっちゃった?、、、そうだよ。厳しい御指導があったからね。つ~か俺、楽しんでた。ハハハハハ。」


【菜月、色んなことに興味は有るみたいだな、、、分からない言葉が多いのかな?、、、何が良いかなぁ~

 タブレットでネット見ても、偏るかも知れないし、、、何が良いかなぁ~、、、何から始めようかなぁ~、、、、、、】


「ごめんなさい、、、やっちゃいました。」

俺が帰るなり、菜月が俺に謝ってきた。

「え、、、何?、、何したの?、、、怪我しなかった?」

「怪我は無い。洗濯。」

「洗濯?、、、洗濯機?、洗濯物?、、、見れる?」

「うん、、、こっち。」菜月が前を歩き、リビングまで行く。

ソファーの上に菜月のジーパンとTシャツ、俺のYシャツ、下着類とバスタオル。見た所、変わったところは無さそうだが。

「Yシャツ、青くなっちゃった、、、」と菜月が言うので、Yシャツを手の取ってみる。

「そう言えば、、、ちょっと青っぽいかな~、、、一緒に洗っちゃったの?」

「うん、、、ジーパンは別々にって言われてたのにうっかり、、、一緒に洗っちゃった。ごめんなさい。」

「……菜月、謝らなくて良いよ。こんなのって俺でもしちゃうから、、、こういうの怒らないから、、、

 怒るのは、怪我をしそうな事とか、人に迷惑かける様な時とかしか怒んない様にしようって思ってるから、、、

 Yシャツはこれでも大丈夫だから、青っぽくてちょっとおしゃれになったようだし、うん、、、もう良いから。」

「……うん。」

「さ、ごはんにしょう。お腹空いた。今日は何にする?」

「麻婆豆腐。……オレ、作る。見てて。」

「うん、頼んだ。見とく。」


「おっ、須藤君、帰るの最近早いねぇ~。新しい彼女でも出来たの?」退社する時、事務所を出た所で社長の水城と出くわした。

「えっ!、い、いえ、彼女じゃないすよ。え~、、、ペ、ペットを飼い始めましてねぇ~。ハハハ。」

「ふ~ん、、、お帰りなさいって言ってくれるペット~?」笑い初めている水城が怖い。

「い、いやっ、喋りませんよ、、、 ひっついても着ませんし、、、」

「そ~お、、、じゃ、そのペットによろしく。」

「あ、ハイ、、、言っときます。」

「そうそう、ホントに須藤君ってわかりやすいよね、、、ウフフフフ。お疲れぇ~」

「お、お疲れさまでした、、、」【……態度や顔に出やすいの忘れてた。いつかは社長へ言わないとな、、、捕まるかも知んないし、、、】

家に帰るのが楽しみになってきている。何か失敗していないか、困っていないかともしょっちゅう考えている。

【タブレットで、メールのやり取りできるように教えてあげないと駄目だな、、、。俺の方が心配だ。】

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