第23話:第一章 19 | 選定試練・0《セレクトゲーム・ラブ》終


◆ narrator / 活州イケス ユイ

───────────


 さっきの光弾を避けてから、明松の動きは明らかに鈍くなった。

 やはりダメージが残ってる。

 距離もだんだんと詰まってきた。じきに追いつける。



 貯めたエネルギーも、薬の効果ももう少し保つ、問題はない。



 もう一度光弾を投げ、隙を作って一気に距離を詰めれば。

 フラつきながら走る今の明松には、この一撃をかわすのも難しい筈。



「──くらえ!!」



 私は光弾を投げる為に右手を振り上げた。

 その瞬間、明松が踵を返してこちらに突っ込んでくる。

 さっきまでと動きが違う、早い。


 西門で最初に対峙した時よりも確実に早い。



 どうして……?

 確かにダメージは残ってる筈。

 もしそれが勘違いで、万全な体調だったとしても、純粋に早過ぎる、まずいッ……!!



 明松に寄られ、そして右手を掴まれた。

 振り解こうとした間に左手も掴まれ、右足も踏まれ、そのまま全身が冷やされていく。



「……なんでそんなに動けるわけ? あんた痛く無いの」

痛い  に決まってんだろ、我慢してんだよ。……お前の能力の使い方を真似した。俺の体温を跳ね上げて血流を早めて、関節の稼働域も無理矢理広げた」



 ……なるほど、私が願能で身体能力を上げるのを真似したって事?

 こうなれば確かに私は動けないし、温められるのと違って冷気はエネルギーに還元できない。


 凍傷だろうが治癒はできる。

 けど、こうも常に冷やされると先に貯めたエネルギーが尽きる………だったら。



「──。……悪く思わないで」

  まえ本気かよ! ふざけんなッ…!!」



 このまま粘っても意識を失うのは私の方だ。

 なら明松も巻き込んで、


 明松に掴まれた右手から光弾を作る。

 そのまま覚悟を決めて、真下へと投擲した……その瞬間。



「──唯、ダメだッ!!」



 横目で声の方向を見れば、息を切らせた清光が立っていた。


 私を追って合流しに来た…?

 手に薄水色の宝石も持ってる、あれに私が触れればゲームに勝てる。



 直後、光弾は爆発して、私と明松を吹き飛ばした。




 ◇

 ◇

 ◇




 光弾の爆風によって、明松のポケットから黄色の宝石が宙に飛び出た。

 それはそのまま清光の足下へと転がっていく。


 でもそっちはどうでもいい。今は──



「受け取れ! 唯!!」



 清光がこちらに自分が持っていた方の宝石を投げた。



 ──あれに触れれば私達の勝ち…!!



 放られた宝石を受け取る為に身を乗り出す。

 すると、私の後ろに吹き飛んだ明松が起き上がる気配が伝わって来た。



 でも関係無い。私の方が確実に近い…!!



 あともう少しで手が届く、そう思った瞬間。


 地面に奇妙な模様が浮かび上がった。

 まるで初めからそういう模様があったかのように。



 ……なに?

 この地面一杯に敷き詰められた、10円玉みたいな模様は──?



 直後。

 私と投げられた宝石の間に突然、

 安足真琴アダチマコト来次彩土キスキハニの2人が現れた。



 なんでいきなり? どうしてこんな? でも関係ない。

 この宝石に触れさえすれば、全部関係ない。



 なのに──



 空中に現れた来次が、状況を理解したのか反射的なのか、清光の放った宝石を手で弾いた。


 宝石の軌道は僅かに上へとズレるが、そのままこちらに向かってくる。


 幸い掴まれはしなかったが、これだと私が触れても二回連続で触れた事にならない、まずい……



「──こっちだ 唯ッ…!!」

「──変われッ…!!」



 清光と来次が同時に言葉を放つ。

 横目で清光を見れば、彼は足下にあった黄色の宝石を手ですくって私に投げるところだった。


 意図を理解し、それを受け取ろうと身構える。


 同じ瞬間、迷宮全体から急に明かりが掻き消えた。



 これはなに? 来次の願能……?



 でもそれも関係ない。

 今はただ宝石に触れる事だけを考えるべきだ。

 次の瞬間、迷宮に明かりが戻った。



 こちらに2つの宝石が飛んでくる。

 視界の端で、後ろの明松も来次の弾いた宝石に触れようと身を乗り出しているのが見えた。



 だけどそれも関係ない。

 私の方が先に、清光の宝石に触れる事ができる…!!




「───勝った…!!」




 遂に、やっと宝石に触れた。

 思わず、自然と声が漏れる。


 遅れてもう片方の宝石が後ろへ通過し、それを明松が掴む。

 でも遅い、私達の方が早かった。


 そのまま清光の方を向く──と。




「──ダメだ、俺にそれを投げろッ……!!」

「──マコト、跳べッ……!!」




 またしても清光と来次の声が重なった。

 どうして投げる必要が、もうゲームは終わった筈だ、何を……?


 だけど清光は何も間違えない、そう知っている。

 だから私は言われるままに清光に宝石を投げ返した。



 同じ瞬間、視界にあった安足真琴の姿が消える。

 そして背後の明松の側に瞬間移動した気配が伝わってきた。



 でも、それももう関係ない。

 もう私達のチームが先に連続で触っている。

 ゲームは終わっているのだから。



 次の瞬間、私の投げ返した宝石を清光が掴んだ。

 ……今の行為に何の意味があったのだろう?


 でももう終わった。

 これで清光は神様になる為の一歩を踏み出す事ができる。




 ───これで、やっと……




『──現時刻をもって、選定試練セレクトゲームの終了を宣言するよ。負けたチームは今後、事前に決めた誓いを遵守してもらう事になる。これから君達を学園に戻すから、そのまま待機してくれたまえ──』




 頭の中に理事長の声が響く。

 良かった、これでどうにか終わったんだ……




『──勝利チームから学園に戻そう。


 来次彩土、

 明松練、

 安足真琴の三名の転送を開始する。

 

 心の準備をしてくれたまえ』




 ──は?

 いやなんでそうなる?

 おかしい、どうして……




 清光を見ると、彼はこちらを見ながら一言漏らした。




「活州さん、そもそもなぜ俺の合流を待たなかったんだ。言ってあっただろう、深追いはしないでくれと……」




 ──何でそんな顔をするの…?


 ──何でまた苗字で呼ぶの…?


 ──私達は勝った筈でしょう…?




「……ごめん。私は、……でもこれ何かの間違いだよ。私達が勝ったんだから。きっと何かの間違いで──」




 そう言った瞬間、私は気付いた。


 清光の姿が明らかに変な事を。

 いや違う。正確には変なのは清光じゃなくって……




「──どうして、




 ……あぁ、全部理解した。

 私は間違えた。間違えさせられた。



 あの時、暗くなった瞬間に。

 二つの宝石の軌道が重なったあの瞬間に。



 だから即座に、二回目を安足真琴に触れさせる為に「跳べ」と言ったのか。

 清光はそれを見破ったから、私に宝石を投げるように言ったんだ。





「……来次彩土キスキハニ





 目の前の来次は何も言わないまま、来た時と同じように光の粒子になって姿を消した。



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