第21話:第一章 17 |『低燃費少女』③



 時間は少し前に遡る。



◇ narrator / 明松カガリ レン

──────────


 ゲームが始まり、探索を続けてしばらくが経った。


 この迷宮内の地面や壁は、同じ素材、ほぼ同じ間隔で並んでおり、人工的な光源の当たり具合もほぼ同一な為、空間全体に温度の差は生まれない造りだった。


 その事に気付き、俺の感知と相性が悪いと考えて最初は人の体温を探し動いていた。

 しかし、感知範囲の端で空間の温度差を感じ進んだ結果、この場所に着いた。



「──見つけたぞ、これが……」



 この空間だけ広く、造りが違うことで温度に微妙な差が生まれていたのだ。

 そして近付く内に、中央にある他とは明らかに違う宝石の温度に気づき、俺は確信していた。


 目論見通り見つけれて良かった。

 あとは──



「よし、あとは来次キスキ真琴マコトと合流できれば勝ちだな」



 そう独り言を漏らした直後、感知内の端に一人分の体温を感じ取った。

 誰だ? この体温は女性のものだ。


 つまりは真琴か活州のどちらか。

 真琴ならこのゲーム俺達の勝ちだ、しかし活州なら厄介な事になる。



 さてどうする……? この場所に近付いて来る。



 俺は対象が入ってくるであろう入口と真逆の位置にある脇道に移動した。

 そして顔だけで入って来る人影を確認する……と。



「……おぉ? 宝石無いパターンじゃん? ……私より先に来てる奴がいるのね、このパターンってどうだっけ。清光が言うには確か──」



 入って来たのは活州だった。

 宝石が無いのを見ると、何か喋りつつ中央に向かって歩いていく。

 俺はそれを確認し、見つからない内に場を離れようとした──が。



「──



 言うと、活州は掌に光弾を作り出しこちらに向かって投擲してきた。

 光弾から逃れる為に身を乗り出す。

 結果、三度みたび活州と向かい合う形になった。



 なんでバレた? ……いや、今の口ぶりだと事前に清光明良に聞かされてた風だ。

 それに「宝石の」だと?



 加えて清光が転送前に言っていた『既に宝石がどこにあるのかも知っている』という言葉を思い出す。



 ──つまり、そういう事なのか?

 清光に当てがわれている神の力は『予知』という事か。



「また会ったね明松。まぁどっちみち、しばらく待って清光が来なかったら、あんたをぶち殺しに行く予定だったんだけどさ」

「──それ  も清光の指示か? お前、あいつに言われただけで平気で人殺しするのかよ。…… 



 ピクリと活州の眉が動く。

 その表情が明らかに敵意と怒気を含んだものへと変わっていく。

 ──こう煽ればどうだ? 怒って情報を漏らさないか?



「……あぁ~なるほどね? 私がそういう見返りが欲しくてこんな事やってると思ってるんだ? へえ、ムカつくねあんた。本当にムカついちゃうなそういうの。全然違うのに。そう見えちゃってるんだ私。へえ~、そうなんだ……」



 下を向いた活州は次第に早口になっていく。

 声量も段々と小さくなり、ブツブツと言葉を紡いでいる。

 そして顔を上げると、大きく目を見開いて言い放った。



「──別にあんたを殺すのは! 清光に言われたのと関係ない!! 私が純粋にあんたにムカついてるからだ!! 片足だけ靴履いてるとめっちゃ歩きずらいんだっつーのッ!!」



 そう叫び、活州はこちらに向かって走り出した。

 早い。また溜め込んだエネルギーで身体を強化している。


 なるほど、やはり清光の指示だな。

 恐らく宝石の確保と、場合によっては俺を失格させる事まで折り込んだ指示を



 やはり清光に当てがわれているのは『予知』で間違いない。

 なら今の俺がすべきは宝石を守りながら時間を稼ぎ、ここを離れる事だ。



「悪いが、俺もお前に付き合ってるヒマは無いんだよ。他を当たってくれ」



 そう言って、俺は再び反対の脇道に入り走り出す。

 清光が宝石の位置を知ってるなら誰より早くもう一つを確保する可能性が高い。

 その後でこの場で活州と合流するつもりなら、少しでも遠くに移動してそれを遅らせるべきだ。



「………ッ! 待て明松!!」



 恐らく俺が全力で逃げた場合、合流を優先して深追いしないように指示が出てる筈だ。


 だから煽りまくって活州の気を引き、このまま俺を追わせる。



「俺を殺したいなら追いついてみろ! 



 活州の治癒力なら、凍らせた足はもう回復している筈だ。

 それに片足が裸足だとしても邪魔なら脱げばいいし、あの身体能力の前では何のハンデにもならないだろう。


 だからこそ、活州の性格ならここで引かない。

 必ず、間違いなく追ってくる。



「待てっつってんだろぉが! もっかい腹に穴空けてやる!!」



 来た。でもまだ足りない、もっと怒らせないと引き返される可能性がある。


 

 そうなれば、もう二度と引き返そうと思えない程に、お前を怒らせる事ができる。



「ハッ! フラフラじゃん!! あんた傷が治っただけでまだ腹にダメージ残ってんでしょ!? すぐ追いつけ──」



 そう言った瞬間、やっと活州が空間を出た。

 ──掛かったな、あつがれ。



「──ッアア"ァ!! クッッッソォ!! あんた、また空気をッ……!!」


「さっきみたいな薄い壁とは訳が違うぞ。俺が通り過ぎた場所は、ひたすらに熱くしておいた。言ったろ? 清光と同じで、俺もお前に付き合ってるヒマは無いんだよ」


「──だから違うって言ってるのにさぁ。ムカつくなあほんとに。………ぶち殺す」



 活州はそう言うと、不気味な笑顔を浮かべてこちらに一歩をを踏み出した。

 目論見通りになったが、ここまで怒らせた以上追い付かれたら本当に命が危ない。


 意識を失ったら学園に戻されるらしいが本当に大丈夫か?

 思ったよりもだいぶ怖いんだけど、本当に大丈夫なのか?



 俺は踵を返して全力で走り出した。

 人生で二度と経験する事はないと思われる、最恐の鬼ごっこが始まった。


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