第18話:第一章 14 | 選定試練・0《セレクトゲーム・ラブ》⑤
マコトがいる位置に向かってひたすらに走る。
後ろからずっと清光が追い掛けて来る、まずい。
左手のおかげで最適なルートを選べているが、最初にあった距離の開きがだんだんと詰められている。
清光のスピードが乗り切らないよう、あえて曲がる回数を増やしたり、視界から外れる動きをしてきたが、このまま行けば間違いなく追い付かれる。
流石元々は運動部なだけあるといったところか。
これじゃ清光に追い付かれる前にマコトと合流できるか少し怪しいぞ、どうする…?
「なぁ来次くん、教えてやるよ! このゲームにはな、宝石に触る意外にも勝つ方法があるんだ!」
「
「
清光が後ろから声を掛けてくる。
こいつ思ったよりも話すな、普段からこんなだったか?
それともなにか、意味があって話し掛けてきてる……?
「
「
なるほど盲点だった。
確かに残り一人にされればゲーム続行は不可能だ。
こいつ、宝石の位置を初めから知っていたのなら、マコトやレンのスタート位置も先に知っていた可能性がある。
そして、それを先んじてチームメイトに伝えていたとしたなら。
「ああ、仲間にはもう指示を出してある! 一定時間経っても俺が宝石を持って合流しなかったら、
確かに、僕と清光以外にもう1人、別の方向からマコトに近付いている奴がいる。
そしてこれは恐らくレンではない。
ある程度近くまで来たから解るが、歩く歩幅がレンとは違う気がする。
恐らくこいつは雇われたという、僕の左手を押し潰そうとしていた男だ。
つまり、清光は僕の左手にしたのと同じように、マコトの事も──
一瞬、保健室で体験した押し潰されていく左手の感覚を思い出した。
「──お前、マコトにあんな事してなんとも思わねぇのかよ!!」
「だから巻き込まないように色々やってたんだよ! 本来ならこの勝ち筋に入る事も無かった、もし入っても明松くんと君のどちらかを追放すれば良かったんだ、それなのに…!!」
「──だったらそれより早くマコトと合流して、このゲームを終わらせる…!!」
そこまで答えて僕は思ってしまう。
なぜだ? なぜそれをわざわざ僕の目の前で言う?
何も言わず2人を退場させた方が楽に勝てる筈だ、どうして?
……それともやはり、僕を動揺させようとしているのか?
だが、もう既に次の曲がり角を曲がればマコトが見える。
その距離まで接近する事ができた。
これならギリギリ、背後の清光に追い付かれるよりも早く──
そう思った直後。
マコトと合流できたであろう脇道への入口も、併せて潰れ、崩壊する。
これは、保健室で僕が受けたあの男の願脳……?
規模があの時とは比べ物にならない程に広い。
「彼は
「
行く手を遮られ、清光に追い付かれた。
そのまま後ろから殴られ、声にならない声を上げて倒れ込む。
「……ギリギリだった。でも君は、安足さんが潰れていく姿を想像すれば動きが鈍くなる、そうなればどうにか追い付いて…スレスレで間に合う……それも分かってた」
清光はそう言いながら、倒れた僕を組み伏せる。
両手を後ろ手に巻き込まれたまま背中に乗られ、身動きが取れない状態になってしまった。
だからか、だから清光はわざわざ狙いを口に出したのか……
どのタイミングで、どういう言葉を、誰に言うかによって、それこそ未来は幾らでも変動するということだろう。
今の言葉もそうだが、先刻からの発言も含めて確信する。
やはり清光の神様の力は、未来が見えるという事なのだろう。
有り体に言ってしまえば『予知』という事か。
「──宝石は返して貰うぞ。これで俺の勝ちは揺るがない」
「
清光は僕の上から退かず、相変わらず目の前の歪んだ空間を見ている。
僕も
少しずつ少しずつ、その歪みは中心に向かって収縮していっている。
僕の左手の時と同じだ。
このままだと中のマコトは潰れるだろう。
学園に戻る時に傷は治るという事だが、清光に殴られ、組み伏せられた僕にはもう分かっている。
このまま潰されれば、マコトは──
「藤収が起こした崩落のせいで、帰って彼と合流する道も潰れたな……。回り道をするよりも
「
「
そう言って清光は僕の上に掛ける力を強くした。
ますます動けない。
そして目の前の空間もますます収縮されていく。
「……なぁ来次くん。君、もう諦めろよ」
「──
妙に落ち着いた声音に、僕は身震いしながら返す。
どういう意味かは分かる。それでも聞き返さない訳にはいかなかった。
「諦めろって言ったんだ。それが君が取れる最善だよ、悪いようにはしないから、もう諦めてくれ」
そう言って清光は僕の頭を地面にこすりつけた。
そして言葉を重ねる。
「いいか? 俺は今からこの場を放置して唯と合流する。唯に会うのに4~5分掛かると思う。その間なら、藤収の願能も安足さんを潰す事は無い。
そうか、僕がこのゲームを諦めてしまえば。
マコトが傷付く前にゲームを終わらせてやると、清光はそう言っているのか……
「だから、な? もう諦めろよ、彼女が大事なら。君、このゲームの『誓い』を立てる時に言ってたろ? 『友達が傷付くくらいなら、僕はそれでいい』だっけ? じゃあさ…その通りにしろよ」
清光はそう言って、更に強く僕の頭を地面にこすり付けた。
「──もう一度言う。
清光 明良はもう一度ハッキリ言って、僕の上から腰を退かした。
そして踵を返すと活州の方へと向かって一歩を踏み出す。
「……追ってくるなよ、来次くん」
背中越しにその言葉を残して、清光は走り出した。
僕はそんな清光を、追いかける事が出来なかった。
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