第17話:第一章 13 | 選定試練・0《セレクトゲーム・ラブ》④


「 ──僕は、"宝石と友達の場所を知りたい" 」



 いつぶりだろうか、自発的に使うのは。


 うっかり使ってしまう事は日常的にあった。

 部屋で一人の時に、それはゲーム中だったり、ピアノの独奏を楽しんだりする時に。


 でもそれはあくまで偶然に近くて、そこに確固たる「使う」という意思は伴っていなかった。


 だけど今は違う。

 今の僕は自分の「意思」で、もっと強く言うのなら明確な「意志」を持って使っていた。



 ──伝わってくる。

 ……理解わかる、この迷路の全貌が。



 僕を中心にだんだんと広がって行く。

 まるで頭の中に明確な地図が造られていくような感覚。

 思えばレンが温度で周囲の状況を探るのは、こんな感覚に近いんじゃないか…?



 迷路の中を動き回る人間の気配が5つ。

 その中の1つが迷う事なく身体を動かし、ある場所に向かって進んでいく。


 その先に少し開けた空間がある。

 ここか。ここに、1つ宝石があるんだな…?


 そしてこの迷わず動き回ってる1人は


 お前なんだろ? 清光キヨミツ 明良アキラ



 でもその場所には、僕の方が確実に近い。




「──悪いな清光。このゲームは勝たせて貰うぜ、

 




 ◇

 ◇

 ◇




◆ narrator / 清光キヨミツ 明良アキラ

───────────


 走る。

 ひたすらに宝石がある場所に向かって走る。


 俺は絶対に神様になる。

 何があろうと絶対に。その為に、今日この時の為に準備をしてきたんだから。


 『予知』を初めて視たのは1ヶ月ほど前だ。

 だから準備不足と言えばそうかもしれない、圧倒的に時間は足りなかっただろう。


 でも無数に広がる未来を、何度も何度も視た。

 条件を変えて、日を変えて、何度も。


 その度に俺はだんだん他の事に興味を持てなくなった。

 それでも不思議と、やるべきだと、成し遂げるべきだと思えたから耐えられた。


 そして今日のこの「線」を視る事ができた。

 再現するのに苦労したが、これでどうにか──



 俺はついに

 次の神様になる為の一歩を踏み出す事ができる。




 ……なのに。

 ……その筈なのに、何故だ─?



「……ふざけるなよ、どうして」



 こんなのはおかしい、絶対におかしいんだ。

 ふざけるな、こんなのは認めない、俺は──




「──ふざけるなッ……!!


  来次彩土キスキハニッ……!!」




 辿り着いたその場所に、先に来次が立っていた。

 そしてその手の中には薄水色の宝石が握られている。


 先に視て知っていた。

 このゲームの宝石は、サイズや重量共に持ち運びができる。


 もし先に手に入れられて、この迷宮内をガン逃げされたなら、俺は追い付けるか…?


 今、この瞬間に取り戻さなくては。

 その宝石で勝ち上がる事は不可能な気がする…!!



「──そいつを寄越よこせ! 来次くん!!」

悪い  な清光。お前がどんな覚悟でこのゲームに挑んでるのか知らないけど、これは絶対に渡さない」



 この空間には、前後左右の四方向に入ってくる為の脇道がある。

 来次は踵を返すと、俺が入って来た道とは真逆の脇道に向かって走り出した。



「待てよ! 来次くん、止まれッ…!!!!」



 来次は答えないでそのまま走る。

 その動きには迷いがないように見えた。


 そうか、彼の左手の力で、最短距離で此処ここに来たのか…?

 そして同じように、最短で誰かチームメイトの方へと進んでいるのか…?



 何故だ、使

 まさか俺が彼を視ていないこの短時間で、彼の価値観が変わったのか…?

 そんな事がありえるのか─?


 だが、今はそれを考えても仕方ない。


 君がそうするというのなら、俺は君が今どこに向かってどう進もうとしているのか、それを先に視る!!



 俺は転送前に他の5人を改めて見ておいた。

 だから、全員のおおまかな転送位置を視て記憶している。

 まだゲームが始まってあまり時間もたってない。

 なら、この先に居るのは──



安足アダチさんと合流しようっていうのか! 君はあくまで、彼女を巻き込もうっていうんだな…!!」


「お前やっぱりマコトの事まだ好きなんだな! もう諦めとけよ! ついでにこのゲームに勝つのも諦めとけ…!!」


「──ふざけるなって言ってるだろ、止まれよ!!」


「止まる訳ないだろ! 脈無いんだってお前!! あの午後ティーな、元はお前のだって言ったら、あいつ一口しか飲まなかったんだぞ…!!」



 だからか。

 あれには界素カイソを乱す薬を仕込んでおいた。

 本来なら彼女は学園まで来れなかった筈なのに。



「君が余計な事を言ったからだ! 止まれって言ってるんだよ…!!」


お前  の好感度が低いのは僕のせいじゃないだろ! イケメンだからって誰でも自分になびくと思ってんじゃねーよ…!!」


君こ  そ自分がフツメンだからって、いちいち俺の顔に突っかかるな! 鬱陶うっとうしいんだよ…!!」



 前を走る来次の未来をもう一度視る。

 どこを通り、どう進むつもりでいるのかを判断しながら、確実に距離を詰めていく。

 ……しかし現状だと、俺が追いつき宝石を奪う線よりも、安足さんに合流される線の方が確度が高い。

 ……4:6、いや3:7のほどの対比か、このままだとマズい。



 ──ふと足下に目をやると、壁から崩れ落ちたであろう石ころサイズの破片はへんが転がっていた。

 おそらく味方の願能によってこの先の空間が歪んでいるのだろう。

 つまりは事前に指示しておいた策が動き出している証拠だ。

 俺はその情報を組み込んだ上で再度『予知』を使い策を練る。


 ついでに距離を詰めるべく、その破片を蹴り、来次の足と地面の間に滑り込ませた。



「───っぶねえだろこのサイコ野郎!

 コケてケガしちゃうとこだったろうが! ふざけんなッ……!!」


「──どうせこれから左手が無くなるんだぜ!?

 今さらちょっとコケるくらい気にするなよッ……!!」



 そう口論をしながら俺は彼の観察を止めない。

 先ほどからずっと見ている。


 ………今の妨害ぼうがい、確実に来次の死角からの一撃だった。

 つまり見て避けたんじゃなく、


 間違いなく彼は左手の『把握はあく』の力をつかっている。

 しかも全く躊躇ちゅうちょせずに。

 やはりこの短時間で価値観が大きく変わったのは間違いない。



 事前に予知していた線とは明らかに違うし厄介だ。

 けれど。


 けれどどうにか、を仕入れる事に成功した。



 ──よし、これなら確度の高い未来が見える。



 俺は自分の左目に再び意識を集中した。

 そして、彼のすぐ先の未来の挙動を視る。


 ……この線は使える、これなら──

 追い付いて、彼の手から宝石を奪い取る事ができるかもしれない。



 まだ諦めないぞ。

 次の神様になるのは、俺だ。




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