第16話:第一章 12 | 選定試練・0《セレクトゲーム・ラブ》③


 清光達がいなくなった直後、僕達も淡い光に包まれ始めた。

 ふと足下に目線をやると、足の先から段々と光の粒子となって消えていく。



「……ハニ君すまない。私は何か間違えたかもしれない! 私は、取り返しの付かない見落としをしていたのかもしれない。君をこんな形で、巻き込むべきでは無かったッ……!!」

「……大丈  夫、覚悟はとっくにできてます。良く分からないけど、やるだけやって来ますよ」



 駆け寄ってきたケイナは僕の肩を掴んで謝罪を重ねた。

 その目尻は潤んで今にも泣き出しそうに見える。



「すまない、本当にすまない。……いいかいハニ君、君の持てる全てを使うんだ。出し惜しみをしてしまってはダメだ! その左手も含めて、全てを出し切ってでも必ず、勝ってくれ、頼む……」



 そう言う内に光は僕の顔の高さまで来た。

 もうじき僕達もこのグラウンドから消え、転送されるのだろう。



「ハニ君、君の左手にあるのはきっと『把握はあく』する力だ! それは神様の力なんだ! 今まで君の人生を何度も狂わせて来たのかもしれない。でも恐れてはダメだ、自分を信じて──」



 ケイナの言葉は最後まで聞こえなかった。

 それより早く僕の身体はグラウンドから消えたのだろう。


 直後、僕の身体はどこにも無くなって、意識だけがどこかにあるような感覚に陥った。


 僕はその一瞬でケイナの言うことを思い出す。


『 神様の力 』

 僕は何故かその言葉をすんなりと受け入れ、心から納得する事ができた。




 ◇

 ◇

 ◇




 つい先程まで、見知った母校のグラウンドに居た。

 しかし今は、見覚えのない迷路のような場所に立っている。


 目に見える位置に少なくとも曲がれる箇所が数十カ所ある。

 僕が立ち尽くしている一本道ですらそれだけの脇道があるのだ。


 全体でどれだけの道があり、そしてどれだけ大きい空間なのだろうか。


 まるでひたすらスケールの大きいあみだくじの盤上に放り出されたような感じがした。



『──今をもって全員の転送が完了したよ。この説明が終わり次第、全員の身体が動かせるようになる。先に何故かルールを知っていた者もいるようだが考慮しない。全員等しく聞いてくれたまえ』



 周囲を観察していると頭の中にケイナの声が響いてきた。

 その言葉を確かめる為に足を動かそうとするが、本当に動かせない。

 先に来ている清光達も同じなのだろう。




 ケイナが言うルールは以下だった。

────────────────────

①勝利条件

 迷宮内のどこかに2つの宝石がある。

 その宝石のどちらかに、同チーム内の2人で連続でタッチした方の勝利。


②注意事項

 ※同一人物が一度に触れる宝石は1つまで。


 ※宝石A に触れた後に 同一人物 が 宝石B に触れた場合、後から触れた 宝石B のみが触れてる宝石として扱われる。

  よってその状態で同チームメンバーが 宝石A に触れたとしても、勝利にはならない。


 ※迷宮内で意識が途切れた者が現れた場合、その者は失格となり、先に学園へと戻される。


 ※迷宮内での負傷は学園に戻った時点で回復する。


 ※勝利条件が達成された時点でゲーム終了。両チーム共に、元居た真弾学園に戻ってくる。

────────────────────




『──最後に少し状況の説明しよう。その迷宮は私がこの試練の為に準備した空間だ。いくら願能を酷使しようと脳への負荷が掛からないようにできている。君達6名は、その迷宮に等間隔でランダムに転送されている……まずはチーム内で合流する事を目標にするべきだろうね』



 そう言ってケイナは一度沈黙した。

 淡々と説明しているようだが、その声音には幾ばくかの不安が感じられた。


 彼女が息を吸い込む音が聞こえてくる、そして。



『──それではこれより選定試練セレクトゲームを始める。君達の健闘を祈るよ』



 直後、僕の身体に自由が戻る。

 それでゲームが開始したのだと悟った。



 今やれる事を全力でやるしかない、すぐにでも動き出さなければ……



 僕はもう一度、周囲の状況を見る。

 周囲に人影もないし、気配も感じない。



「等間隔でランダムに転送されてる…か、なるほど。──よし、まずは合流だったな」



 僕は足下の色を一部変えて、赤色の「×」印を作る。


 これで道に迷ってグルグルしても元の場所を見失わない。

 案外、僕の能力と相性がいいゲームなんじゃないか…?



 そう思い、試しに一番近くの曲がり角を曲がってみる……が。

 曲がった先の景色を見て絶望してしまう。



「……うっそだろ。こんなの無理だって、絶対……どんな場所作ってるんだよ理事長」



 最初の道が特別な訳では無かった。

 予想していた事でもあったが、曲がった先でも同様に無数の脇道が続いている……これはマトモに探したところで、レンもマコトも宝石も、見つかるのに何十時間も掛かりそうだ。



「──けどそれじゃ間に合わないよな、清光は…」



 そうだ、清光は言ったのだ。


 と。


 清光に願能が無い以上、それは神様の力によるモノだろう。

 どんな力を持っているのか知れないが、でもあの言葉と表情は嘘では無かったように思える。


 であれば迷ってる時間はない。

 転送された場所にもよるのだろうが、今にも宝石の場所に辿り着く可能性すらある。



「考えろ、清光を出し抜く方法を。考えろ、どうすればいい? どうしたら既に場所を知ってる奴よりも早く、見つけられる……?」



 そう呟く内にケイナの言っていた事を思い出す。


 使と。

 なのだと。



 ……今まで意識的に使わないようにしてきたこの力を、今度は自分から積極的に使えっていうのか?



 正直に言えば、できれば頼りたくはない。


 だけど、それでも──

 ケイナが校庭で最後に言っていた言葉が思い出された。




 『今まで君の人生を何度も狂わせて来たのかもしれない。

  でも恐れてはダメだ、自分を信じて──』




 僕は何故か、その言葉を信じてもいいなと思う事ができた。


 だから。


 


 僕は……




「 ──僕は、"宝石と友達の場所を知りたい" 」



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