第15話:第一章 11 | 選定試練・0《セレクトゲーム・ラブ》②
真弾学園 中等部 多目的グラウンド。
先ほど目を覚ましたレンを見て、ケイナは口を開いた。
「レン君、傷は大丈夫かい?」
「
そう言うレンは確かに万全という様子では無かった。
それでも先程までの重体を鑑みれば、意識を取り戻し自分の力で立ち上がってるだけでも奇跡的に思える。
「すまないね、私ではそこまでしか回復できなかった。失った血液を補う為に君自身の体力をだいぶ使ってしまっている。……くれぐれも無理はしないでくれたまえ。最初の一球を防いでくれさえすればいい、なんならそれも私がどうにかできない事もないしね」
「……
真剣な面持ちでそう言うと、レンは深呼吸をして一歩前へと踏み出した。
レンが居なければ部屋に光弾を撃ち込まれた時点で終わっていたし、それから何度も助けられたのに、何故そんな言い方をするのだろう。
「……けど、
「……
確かにそんな事を言っていた気がする。
でも、だとするなら僕は一つの矛盾を感じてしまう。
「でもそれっておかしくないですか? 終業式で言ってましたよね、願能に目覚めて無い者からは記憶を封印するって……」
「
その言葉で、僕は途中で切り上げられた保健室での会話を思い出した。
僕と同じで、願能とは別の秘密を抱えている…?
「………理事長それって、さっき保健室で言ってた───」
「──
ケイナはそう言ってグラウンドに入って来た人影を見やる。
遠目だが、目立つ金髪とシルエットで分かる。
清光 明良、活州 唯、雇われたという例の男の3人だ。
前に出た活州がその掌にあの光弾を作り出した。
それを横の清光が手で制そうとしたようだが、活州は取り合わずこちらに向かって
しかし前に出たレンが手を縦に振ると、その光弾は再び僕等の頭上を通過していった。
「それはもう一度止めただろ? 学習しないな。足が痛くてここまで走れないから仕方なくか?」
「
活州がこちらに走り出そうとした……が、動きが止まる。
ケイナに聞いていた通りだ。終業式の時と同じで、彼等の身体の自由が効かなくさせられている。
「やめるんだ活州 唯さん。この距離で私の視界に入った時点で君達はもう無力だ。動けないだろう? そしてこの距離からではそっちの彼の願能も届かない筈だ。違うかい?」
ケイナは雇われたという男を見ながら言う。
確かに接近された保健室の時とは違い、男の願能はこちらに届かないようだ。
「それで? このまま俺達を殺そうっていうのかな? 今日この一瞬俺達を足止めしたところで、解放されればまた追い回すよ。明日からも、新学期が始まってからもね」
「だろうね。しかし私もなるべく可愛い生徒を傷付けたくはない。……だから1つゲームをしようじゃないか」
「──ゲーム?」
清光の問いかけにケイナが答え、それに活州が質問を投げ掛ける。
事前にこの流れを聞かされてた僕達はともかく、向こうの3人で驚いてるのは活州だけのように見える。
その事が少し奇妙だった。
「そうだ。私が、神が執り行う公正なゲームだ。ちょうど3対3だしチーム戦でいこう。ハニ君達が負けた場合は必ず『いつか来次彩土くんの左手の中身を渡す』と約束しよう」
「……『いつか』? そんな曖昧な対価なんて、うやむやにされそうで信用できないわね」
「そこは飲み込んでほしいね。これは安全にハニ君の左手から取り出せる方法が分かり次第、即刻果たす。お互い、負けた場合は必ず誓いを守らねばならない。何があろうと絶対にだ。これはそういうゲームなんだよ」
再び質問を投げる活州にケイナが答えた。
それを受けても納得できないらしい活州が更に口を開こうとするが、先に清光が喋る。
「──待てるのは春休みの間だけだ。もしその間に来次くんの手から取り出す方法が見つからなかった場合は、その左手を切り落としてもらう。その条件なら飲もう」
「──
清光の提案にケイナは身構えた。
けれど、最悪成立しない可能性も考えてた僕にとってはこの提案は許容できる物だった。
「──僕はそれでもいい。これ以上、僕のせいで友達が傷付くくらいなら、それで」
「
僕が条件を飲んだ事にケイナは驚き、何か言いたそうだったが、それを抑えて清光の質問に答えた。
「……君達が負けた場合、金輪際ハニ君に危害を加えないと約束してもらう。そして彼の左手の事は諦めて──」
「──飲めないな。俺は絶対にその左手を諦めることはない。……でも譲歩ならしてもいい」
「──譲歩とはなにかな?」
ケイナの言葉を聞き終わる前に、清光はハッキリと断った。その上で譲歩ならしても良いと言う。
「期間限定でいいなら飲もう。例えば春休みの間、限定でね。それ以降は今回のゲーム形式のような、彼の命を脅かさないやり方で奪わせてもらう。……これでどうかな?」
「……
思ったよりも好条件を突きつけられ僕は驚いた。
それはケイナも同じなようで、訝るような表情を作っている。
「それでいい、飲もう。……誓うよ。もし俺達が負ければ、『春休みの間、来次くんには手を出さない。そしてそれ以降は公正なゲーム上の勝ち負けで、彼の命を脅かさないやり方で奪わせて貰う』……これでいいかな?」
「──僕もそれでいい。……誓います。僕達が負けたなら『方法が分かり次第、この左手の中のモノを渡す。春休み中に方法が見つからなかったら、この左手を切り落とす』何があろうと、この約束は守る、絶対に」
「キスキ、あんた本当にいいの、こんなの……」
改めて清光が誓いを口にしたのに
それに心配するような表情でマコトが一言付け足してきた。
「いいよ、大丈夫だ。公正なルールなんだし」
「いいね来次くん、なかなか即決じゃないか。……けど本当にいいのか? 負ければ、場合によってはマジに左手が無くなるんだぜ?」
「お前には午後ティー1本分の借りがあるからな。飲んでやるよ」
動揺させようとするかのような清光に、僕は適当に返した。
思えば学校でいつもすれ違う時、清光とはこんな軽いやり取りばかりして来た気がする。
「──そんな事で決めるのか。馬鹿だな君は、やっぱり面白いよ。……君しゃなければ良かったのにな、そうならもっと仲良くなりたかった」
「……
そう返しながら思い出した。
今日の昼休み、心の中で清光に同じように思った事を。
そしてその時の僕達のやり取りを。
「……清光。お前が、部活を辞めて変わりにやりたい事っていうのは、もしかしてこれなのか? 何のために、どうしてこんな──」
「
そう言われて僕はハッとする。
的確に急所を付かれたような、そんなチクリとした痛みに気付かされた。
「──僕は、僕は違う。そんな筈ない、きっと、
自分で言っていて疑問が湧き上がってくる。
実家の染め物屋を疎ましく思ったのはいつだ?
昔は家業に憧れていた筈だ、それなのに。
習い事のピアノを放り出したのはいつだ?
認められて僕は満足していた筈だ、それなのに。
好きなゲームに関わる仕事の、悪いところばかりが目に付くようになったのはいつだ?
きっと今度こそと思っていた筈だ、それなのに。
全部、全部本格的に、
「──俺もそう思っていたさ。でもすぐに自覚するぜ、俺達は必ずそう思うようになるんだ、絶対にね」
「……
まだ言い足りなかったがケイナに遮られてしまう。
僕はそのまま押し黙って足を引き、一歩後ろに下がってしまった。
◇
◇
◇
「よし、転送を開始するよ」
ケイナが改めてそう言うと、清光達の身体が淡い光に包まれ始めた。
「……理事長、このタイミングなら、もうあんたはゲームのルールを変えれない。そうだろ?」
「
清光の問い掛けに、ケイナは訝るように質問を返す。
「苦労したよ、この状況を作るのに。例えばもっと大人数で押し掛ければ、あんたはこんな交渉はしなかった。
「──
清光は質問に答えない。
それどころか、笑いながら更に質問を重ねてくる。
「この
「……
清光はまたしても質問に答えない。
その挙動の不気味さに僕は身構え、それを見た清光は笑みを深くして、更に言葉を重ねた。
「このゲームのルールを当ててやろうか? 二種類の宝石のどちらかを、先にチーム内の2人が連続でタッチした方の勝ちだ。そうだろ?」
「………ッ、
もう清光はケイナを見てすらいなかった。
完全に無視し、先程からずっと僕の方を向いて話をしている。
「悪いな来次くん。このゲームは勝たせて貰うよ、
「───
ここでやっと清光はケイナの方を見た。
そして得意げに、さも当然だと言うような顔で言う。
「『どういう意味』か、そうだな。
……平たく言えば、勝利宣言ってところかな?」
清光は自分だけ納得したように言い残して、光に包まれて姿を消した。
グラウンドには僕達の動揺と、静寂だけが残った。
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