第74話 二十四年間の後日談その三
ちょっと話は戻って星世の医師免許試験合格パーティから始まります。
―――――
俺達は、星世の医師免許試験合格の連絡を受けて、パーティが予定された日の二日前に来日した。
「あれから一年ね。日本に帰って来るの」
「そうだな。ご両親が喜ぶぞ」
俺達は如月家の玄関に来ていた。インターフォンを鳴らすと直ぐにお母さんが出て来た。
「立花さん、良く来てくれました。素世お帰り」
「お久しぶりです。お義母さん」
「お母さん。ただいま」
「ふふっ、素世を見たらお父さん喜ぶわ。さっ、早く上がって」
俺達は、素世の部屋で着替えた後、リビングに行った。お義父さんが待っている。
「お父さん。ただいま」
「お帰り。素世」
「お義父さん。久しぶりです」
「久しぶりだな。立花君」
「素世体調はどうだ」
「大丈夫よ。航空会社も随分気にしてくれて」
「そうか。良かった。しかし立花君。流石実行力があるな。あれから一年しか経たないのにもう素世のお腹に子供がいるとは」
「済みません」
恥ずかしくなって謝ってしまった。
「何を言っている。有言実行大したものだ」
「お父さん。それ褒めているの?なんか男の人の会話に聞こえるんだけど」
「それはそうだ。立花君と私は男だからな。はははっ」
「予定日はいつなんだ」
「今年の十月一日です」
「そうか。楽しみにしている。出産の時はこっちに帰って来るのか」
「ごめん、今務めている病院で産む。これからの事を考えるとその方が良いと思うから」
「そうか、残念だが仕方ない。生まれたらすぐに行くからな」
「お義父さん、済みません。素世の気持ちを優先しようと思います」
「構わないさ。いずれはこっちに来るんだ」
「それは約束している通りです」
「お父様、星世は?」
「ああ、ちょっと訳ありでな。明日帰って来る」
「そうですか」
「立花君。星世が帰ってきたら、また少し相談に乗って貰えないか」
「いいですけど。…………」
「お父様、無理な事じゃないですよね」
「無理ではない。少しの相談だ」
なんか気になる言い方している。
翌日、星世は実家に帰って来たが浮かない顔をしている。金田と何か有ったんだろうか。素世から後で聞いた方が良さそうだ。
次の日は星世達が結婚したホテルの少し広めの部屋で星世の医師免許試験合格と次期病院長の発表がお義父さんから有った。
親族の人達は、星世の結婚式の時に見た顔ぶれで地元の名士も居れば、他の地方の病院経営者、更には地元企業の経営者がいた。
確かにこれだけの人達と繋がりを持ちながら病院経営をするという事は単に一医師が腕が良いだけでは済まない事が容易に想像できる。
俺は素世と一緒にパーティの様子を見ていると
「立花君、紹介しよう。こちら村上病院を経営している村上康夫さんだ。今後会う機会も会うだろう。挨拶してくれ」
「立花です。始めまして。宜しくお願いします」
「大きな男だな。この男が如月の自慢の息子か。コロンビア大学で准教授を務めていると聞いた。将来が楽しみだな」
「はははっ、その通りだ。妻の素世のお腹には子供もいる。将来は星世のサポートさせるつもりだ」
「お父様、まだ早い話です」
「良いじゃないか。決まっている事だ」
「いつもながら娘さんは綺麗だな。羨ましい限りだ。妹さんの事といい如月の所は順風満帆だな。うちの愚息にも聞かせてやりたい」
少しの挨拶の後、お義父さんと村上医院長は他の人の所に行った。
ちらりと星世を見るとお義母さんと一緒に他の来客を対応している。
一通り挨拶が終わりお開きになった後、俺達は如月家に戻った。お義父さんはもう少し来客の対応をするらしい。
素世と一緒に着替えてからリビングで休んでいると星世とお義母さんも帰って来た。少しの間、アメリカでの生活の事などを話題に四人で話していると、お義父さんが上機嫌で帰って来た。そのままリビングに来る。
「おう、みんな揃っているのか。丁度いい。立花君。ちょっと相談に乗って貰えないか」
「あなた、明日にした方が良いのじゃありませんか。だいぶお酒が入っている様ですし」
「酒は飲んでいるが、話せない内容ではない」
「無理しないで下さいね」
お義母さんは話よりお義父さんの体調を気にしている様だ。
「立花君。君も不思議に思っているかもしれないが、今日のパーティに星世の夫である一郎君が出席していない。
星世の話では、この如月病院の経営を含め、一切の支援をしないと言って来たそうだ。
元々病院経営は彼では出来ないと思っていたが、病院長の夫としての立ち位置という事は理解しているものと思っていた。つまり何事か有る度に星世の前に出て貰い些事に対応して欲しいと思っていたのだよ。
だが、それも拒否したらしい。不満の理由は正直君の存在だ。いや悪い意味で言っている訳ではない。彼は君に嫉妬をしているみたいでな。かと言ってそんな事をいつまでも引きずる男に私も未練を残すつもりはない。
そこでだ。ここからが相談なのだが、君にその役割を担ってほしい」
「どう言う意味ですか」
「つまり、病院経営以外の些事に関して如月家の人間として表に立って欲しいのだよ」
「えっ、それは……。俺が日本に居ないといけないという事ですよね。それは無理です。今の研究を打ち切るなんて出来ません。それに今の地位に導いてくれた恩師の方達を裏切る訳にも行かないです」
「君の言っている事は当然だ。私も君に日本に来てくれ等と毛頭言う気はない」
「良く分からないのですが」
「私が引退する時、病院経営代表者を君にしたいのだよ。日本に居る必要はない。病院の運営は星世がやる。今から覚えこませれば十分出来る様になる。それに優秀なスタッフもいる。立花君に現場の事をしてくれとは言わない。だが、何か対外的に事が生じた時、例えば、今日パーティに来た人達に対して如月家として動かなければいけない時星世では心もとない。
本当は一郎君にその辺を期待したのだが、彼はさっき言った通りだ。もう君しかいない。この通りだ。頼む。私の後継者になってくれ」
お義父さんが頭を下げたまま、俺の返事を待っている。他の三人は何も言えずに俺とお義父さんを交互に見ている。
「お義父さん、直ぐに回答できる内容ではありません。素世とも星世さんとも良く話した上で決めないといけない事と思います。お時間頂けないでしょうか」
「はははっ、今すぐにとは言っていない。将来を見据えて考えてくれとお願いしたい」
「…………。分かりました」
「そうか。一言で拒絶されたらどうしようかと思っていた。その言葉だけでも今は十分だ。そして君は私の期待を裏切らない男だ」
「お父様、自分都合の話ばかりしないで下さい。隼人さんにもこれから色々有ります」
「いや箔を付けてくれた方が如月家の為には良い事だ」
とんでもない事を言われたものだ。今日はみんなお酒も入っている。明日午前中に話す事にした。便は午後からだ十分間に合う。
「隼人ごめんね。お父様また無理な事を言って来て」
「お義父さんの期待がこちら側に偏り過ぎるのは心配だな。妹さんの所とバランスが取れる形で有れば良かったのだが。しかし金田はどうしたんだ。妹さんの件は分からないでもないが、ここまで拒絶する理由が見えない」
「金田君の事は隼人が理解するには無理かもしれないわ」
「どう言う意味?」
「隼人も小さい頃から色々あった。中学、高校と。でもあなたはそれをバネにして成長する事が出来た人間。でも金田君はそういう事につぶされてしまう人間なのよ」
「そういうものか」
「そういうものよ」
俺達は次の朝。当面の話ではない事を認識した上で、想定される具体的な事象に応じてどう対応すればいいか、お義父さんから具体的に聞く事で今後対応するという話で終わらせた。
漠然としているが、今のところは捉えどころのない話だ。今はこれでいい。俺は素世と一緒に午後の便でアメリカに帰った。
それから三年後、金田が医療分野のAI研究から外された事を妻を通じで知った。
―――――
またまた、如月家より難しい事をお願いされた隼人。
そして金田の事は前回お話した通りです。
次回は鈴木穂香の事を書きます。
お楽しみに。
並行して投稿している作品も同時にお読み頂ければ幸いです。
「フツメンの俺に美少女達が迫って来る。なんで?!俺は平穏に学校生活送りたい」
面白そうとか、次回も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると 投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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