第73話 二十四年間の後日談その二


柏木美緒の場合


 私が、先端技術第一営業本部第一営業部に移動になり医療分野の担当になってから一年が経った。


 この部署は名前の通りIT主にAIを利用して多方面の分野でその利用を推進する為の部署。


 社内では技術研究所で、医療分野で利用するAIの開発を行っている。担当の一人に金田君いや如月君がいる。


 彼は、如月星世の夫となり婿に入った。あの旅行の時、私がもっと積極的に彼に接していれば、立場は変わったかも知れないけどあの時は私も勇気無かったし。


 本当は立花君とお付き合いをしたかってけど、星世の姉に取られてしまった。あの美しさで医学部に入る程の秀才。私では歯が立たなかった。


 あれから二人の人とお付き合いしたけど、上手くいかなかった。同じアパートという地の利を生かして、もっと早く積極的出れば良かったかもしれない。


 結局今は一人。




 そういう意味では、今日金田君を誘ってもこちらとしては問題ない。彼はこの所苛立っているというか焦っている感じがする。営業とのミーティングでも他のメンバーとの調和がとれていない感じだ。

 大丈夫かなと思うが、私には関係ない事。一時の暇つぶしに考えればいいだけ。


仕事が終わり、午後六時になった。普段忙しいと聞いているけど今日は定時退社だ。

はて?まあいいか。




「如月君。今日はどこ行こうか」

「如月は止めてくれ。金田と呼んで」

「分かった」

「和洋中どれでも良いよ。研究所が豊洲に移ってから会社の帰りはだいぶ楽になったからな」

「そうね。大和じゃ何にもなかったもの。じゃあ、フレンチにしようか」

…………今は色々あります。



 私達は東銀座のフレンチのレストランに来ている。こじんまりした良いお店で、彼は偶に仕事仲間と来るらしい。

 赤ワイン三杯目飲む辺りから段々会社の愚痴を言い始めた。


「今の主任がやたら俺に仕事を押し付けて来るんだ。二言目には、私がやればいいんだけど、如月さんやって来てくれないかっていうんだぜ。あれ自分じゃ出来ないから体のいい押しつけだよね。あんな上司早くどっかへ行けばいいのに」


「でも金田君のやっている仕事って誰でも出来る訳じゃないでしょう。上も早々異動はさせられないんじゃないの」

「いやあでもさ…………」


 いい加減に会社の愚痴は終わらせて欲しい。美味しいお酒と料理が不味くなるわ。どうしたんだろう。前の金田君だったらもっと控えめで大人しい子だったのに。


「柏木さん。良い人見つかった」

急に話が飛んだ。


「えっ、それはもうって言いたいけど。今はフリーですよ」

「そうなんだ。お店変えない」


はあ、そういう事。良いけどさ。


 二件目はホテルにあるショットバーに来ている。今度は如月さんの実家のお義父さんの悪口を言い始めた。堪らないなもう。


「金田君。さっきから愚痴ばかりだけど。そんなにストレス溜まっているの」

「いや、吐き出し先が無くてさ」

「星世に出せばいいじゃない。妻でしょ」

「嫌出来ないんだ。理由は今日俺がここにいるという事だよ」

「……そうなんだ。でも別れるとかって話にはならないいでしょ」

「それは…………」


 俺だって、妻が病院長やっていれば、万一仕事が上手くいかなくても保険を持っている様なものだ。離婚は出来ない。


「ふふっ、いい保険だものね。星世は」

頭の中丸見え。


「そんな事無い。万一別れる様な事が有っても俺一人で食っていける実力はあるつもりだ」

「そうかあ。だから自分の意思でここに居るんだ」

チラッと時計を見るとまだ九時半。さて彼はどう出るかな。


「柏木さん。そろそろ出ないか」

「良いですよ。帰りますか?」

「いや…………」




 医療分野担当営業という立場柄、彼とは社内ミーティングで偶に会う。ミーティングは事前に分かっているので必ず前日までには、連絡が来る。アフターミーティングの事について。


 彼は所帯持ち。早々付き合う訳には行かない。でも三回に一回位は付き合ってあげた。でも星世とはどうなっているんだろう。あれ以来自分の家の事は話題にしなくなった。


 私も早く良い人見つけてこんな関係終わらせよう。こっちはただの遊びだから。彼もそうだろうけど。


 しかし立花君メジャーになったな。逃がした魚は大きいか。



 それから三年後、彼はAI研究から外された。社内HPの人事異動詳報では、技術本部第一技術部から第二技術部に移動になると書かれている。


 第二技術部は企業の業務AP開発が専門だ。全く畑違いという事も無いのだろうけど、どうしたのかな。ローテとは思えないし。


 彼との関係は一年で終わった。彼と会っていてもトキメキがない。いくら遊びとはいえ、詰まらない人とは会いたくない。


 彼と別れてから半年後、同じ営業部門の人とお付き合いするようになった。誠実で優しくて私を一番に考えてくれる。


 まだプロポーズはされていないけど、そんなに時間は掛からなそう。クリスマスのプレゼントはペアリングだったもの。

 

―――――


 まあ、柏木さんは普通にOLの道を突き進んでいますね。お幸せに。


並行して投稿している作品も同時にお読み頂ければ幸いです。

「フツメンの俺に美少女達が迫って来る。なんで?!俺は平穏に学校生活送りたい」


面白そうとか、次回も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると 投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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