第72話 二十四年間の後日談その一


 如月医院長と言い別れたままになっている如月一郎(旧姓金田)と如月星世との間や二人の間に出来た子供の事、そして隼人と妻素世のその後を描きます。

 更に立花隼人の元恋人鈴木穂香や柏木美緒そして望月葵陵と日下部美鈴のその後を描きたいと思います。


 本編内の流れの中では無い場面も出てくると思います。

 複数話構成になります。お楽しみ下さい。


―――――


◇ 如月一郎が如月病院の件で星世の父と言い別れた後


 俺は、妻の実家である如月病院の事について、妻を病院長とする為に如月家に婿として入った。


 だが子供の事については何も話していない。立花の子供が俺の子供を副医院長として支える事について確認はしていたが、実際あいつの子供が病院に入るのは吐き気がする。


 星世を救えず、姉の素世をものにしてこの病院に入り込むなど言語道断だ。あいつは許せない。


 だから星世が医院長になった時、俺が病院経営を支える事で如月病院を回していけば良いと考えた。それならば子供が星世の後を継ぐのは問題ないし筋が通る。


 しかしお義父さんは病院経営を甘く見るなと言った。俺はそんな事無いと思っている。

俺に出来ないはずがない。

たかだか病院経営だろう。各部門の採算と経理、外部業者との関係を維持できれば良いだけじゃないか。


「あなた、もうお休みになられたら。今日は疲れたでしょう」

「星世か」


 俺は妻が風呂から上がり、眠る準備をして俺の側に来ると、いきなり抱き寄せ唇を合せた。

長い口付けを終わらせると


「どうしたんですか。いきなり」


「ああ、少し考え事をしていてな。俺はどう考えても立花の血が如月病院に入って来る事は避けたい。

星世だって立花の子供が病院来れば、穏やかな気持ちで居られないだろう。星世やこれから生まれる子供に嫌な思いをさせたく無いんだ」


「一郎さんの気持ちはとても嬉しく思います。確かに立花さんの子供が病院に入れば一時はそういう気持ちになるかもしれません。

 でもいずれ慣れるでしょう。子供には何も言わなければ良いだけの話です。姉の子供だというだけです。誰も話さなければ知る事も有りません」


「お前はそういうが、俺はその姿を見ているのがつらいんだ」

「一郎さんは、そうそう病院には来ないでしょう。少し我慢すれば良いのですよ」

「それが出来ないんだ。お前を見ていると余計に」

「…………」



一郎さんは、私の体の向こうに隼人の影を重ねて見ている。だから彼が側に居る事、子供が病院に来ることが許されないのね。


 でも如月病院は家族で守っていく必要がある。地域中核病院として長い時間を掛けて地域に染み込み信頼を得ている。それをだめにする訳には行かないわ。


 頭で分かっても心が拒否し続ける間は、一郎さんは考えを変えない。私は二月に医師免許試験が有る。合格して一年程経ったら実家の病院に戻る。そうすれば一郎さんとは早々に会えなくなる。


 このままで彼を一人にしておく事も出来ないし。実家の側の会社に入る事は出来ないかしら。まだ時間はある。根気強く話してみるしかないわ。


「星世、来なさい」

「はい」




 俺は星世の実家での一騒動が有った後も会社でAIの研究に没頭した。俺が担当する分野は医療。いずれAIが医療の重要な位置を占めて来る。そうすれば如月病院の経営も今の様なやり方は出来なくなる。

 最近また徹夜が多くなってきたが星世には我慢して貰うしかない。



実家の騒動から半年が過ぎ三月も中旬になった頃



「あなた、医師免許試験に合格できました」

「そうか。やったな星世。おめでとう。お義父さんも喜ぶな。連絡はしたのか」

「いいえ、まずは一郎さんに教えてからと思って」

「そうか。じゃあすぐ実家に連絡しないと」

「はい」


 当然ながら如月家で星世の医師免許試験合格祝いの話が出た。立花達も来日するらしい。はっきり言って会いたくない。


 前回来日した時も母校と京帝大学で講演を行ったと聞いているし、去年の九月にはコロンビア大学の准教授様になったとか聞いている。とんでも無い出世だ。


 それに引き換え、俺はまだ外資系とは言え国内の研究所に埋もれて結果も出せないでいる。会えば当然比較される。出席なんかしたくないものだ。



「あなた、実家での私の医師免許取得のお祝いが来月の半ばにやる事に決まったわ。お忙しいようだけど出席出来ますよね」


「来月中旬か、星世悪いがその時は研究の山場になっている。とても出席できない」


「…………。冗談ですよね。妻の大切なイベントですよ。如月病院を継ぐ事が出来るという事を親戚の方にもお披露目する機会です。あなたが居なくてどうするんですか」


「俺がいなくてもそれは出来るだろう」


「もう一度考え直してください。実家は一郎さんが出席すると当然思っています。妻が医師となり病院を継ぐ事が出来るという事を親戚の皆さんにお披露目する時にその夫がいなくてどうするんですか」

「立花達も出席するんだろう。俺はあいつに会いたくない」


「親族です。出席して当然です。呆れました。そんな狭量でこれからの如月病院を支えて行けますか。お父様に言いましたよね。自分が支えると。あれは嘘だったんですか」


「うるさいな。勝手にやればいいだろうそんなもの」


「そんなもの?!あなたに取ってはそんなものなんですか。分かりました。お父様にもそう伝えます。これでお父様も貴方を諦めるでしょう」

「…………」 


 信じられない。一郎さんはこんなレベルの人間だったの。私と結婚した時のあの思いは何処に行ったの。




妻がお披露目の為実家に帰ったその日、俺は研究所で仕事をしていた。


「あれ、金田さん(如月一郎の旧姓)。今日はお嫁さんの実家じゃなかったの」

「あっ、柏木さんか」


「いいんだ。あんなもの。俺には関係ない」

「そうなの?じゃあ、きょう夕飯一緒に食べようか。何か溜まっているみたいだし」

「…………。いいよ」


―――――


一郎君、なんか負のスパイラルに陥っている様な。

次回は柏木さんも話が展開します。


並行して投稿している作品も同時にお読み頂ければ幸いです。

「フツメンの俺に美少女達が迫って来る。なんで?!俺は平穏に学校生活送りたい」


面白そうとか、次回も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると 投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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