第70話 立花夫婦二度目の帰国

立花夫婦二度目の帰国


少し時間の進みが早くなります。


―――――


 隼人達がニューヨークに帰って一年と少しが過ぎた。


結婚式の時に如月一郎から言われた事についてはそのままにしてあった。すぐにどうなる事でもない。そして俺達が如月家に行かない限り何も問題は発生しない事だ。

だが、あのままにして置くことは出来ない。素世の為、しいては如月家の為にもあいつの好きにさせる訳にはいかない。


「素世、今度サイエンスにブルー教授と共著で今までの成果と言っても途中だけど発表する事になった」

「凄いじゃない。今度はどんな内容なの。聞いても分からないかも知れないけど」

「理論物理学の世界だからね。簡単に言うと宇宙空間一三八億年先の次元理論を説明する内容だよ」

「もういい。それだけで頭の中いっぱいだから」


「そうか。ところで素世、病院の医局に研修医で入る事決まったの?」

「うん、そこで少し錆びれた知識を元に戻してから医師免許を取る事にする。二年位掛かるけど、ごめんね」


「何で謝るの」

「医療事務止めないといけないし。収入減るから隼人に負担掛けるし」

「なんだ、そんな事か。いま工学部の講師をしているけど、ブルー博士の推薦で准教授の道が有りそうなんだ。少しだけど収入上がるし、大丈夫だよ」


「でも、そうなると本当に帰国難しくなるから、お父様と話そうかな」

「そうだな、一郎の事もあるしね」

「ところで妹さんは今六年生だよね。医師免許取る迄、後一年半という所か」

「今は、まだお父様が元気だし問題ないわ。一郎君もそのままだから何も変わらないって言っていたよ」

「素世と妹さんの仲が戻って良かったよ」

「元々仲良いからね。そうそう、結構一郎君を尻に敷いているみたい。あの星世がという感じだけど」

「そうか」


隼人とブルー教授のサイエンスへの投稿は、前程ではないが、あくまで理論物理学の一論文としてはそれなりの評価を受けていた。




その年の年末


 隼人は、東都大学、京帝大学の理論物理学の教授達から大学にて公演を開いてくれという依頼が来ていた。論文を公表してから、半年後の事だ。


「素世、東都大学と京帝大学から今回の論文と前回発表した論文について講演を開いてくれないかと東都大学の神田教授から依頼が有った。

神田教授にはお世話になっているし、断る訳にはいかないけど、今研究が忙しいし、准教授になる為の準備論文も作らないといけないし、忙しいんだ。どうしようかな」

「遅らせればいいじゃない」

「遅らせると言っても半年先になるよ。どうなのかな」

「取敢えず言ってみれば、神田教授に」

「そうだね」


「ねえ、京帝大学行くならその後京都旅行しようよ」

「うーん、公演順番聞いていないからな」

「どっちでもいいじゃない」

「分かったよ」


「それと隼人お願いがある。ちょっと実家に寄りたいんだ。理由は跡継ぎ問題。やはり一郎君の件は見逃せない。駄目かな」

「…………。いずれそうなると思っていた。俺もあのままでは済まないと思っている。お義父さんとの約束もある。素世との結婚を許して貰う時の約束でもあるし、これを勝手に反故にする訳にはいかない。いいよ実家に行こう」




神田教授に今の状況を相談した所、年度明けに来日してくれても良いと返事を貰った。来年度最初のイベントとして実施すると言って来た。


 今年度中に論文提出は終わるから丁度良いかも知れない。来年四月には教授面接があるが、それはブルー教授が根回ししてくれているから問題ない。来年九月には晴れて准教授になれる。




その頃、日本では


「如月君、ここの相互認識ポジの部分もう一度見直してくれ。二層目の出力と三層からのループバックにバグなのか拒絶が見られる。どちらの問題か分からない。ここの階層は八-八の五層にしているから大変だけど頼むよ」

「はい」


ここの所徹夜が多いな。二日に一度は徹夜だ。好きな事をやっているから良いんだけど…………。今日も午前様だ。星世寝ていると良いんだけど。


俺は、玄関の鍵を開けてそっと部屋に入った。まだダイニングとリビングに電気が付いている。

「あっ、一郎さん。お帰りなさい」

「まだ、起きていたの。寝ていても良かったのに」

「いいの。食事は済ましているわよね」

「うーん。実言うと」

いつも俺は夜遅くなるが帰れるときはコーヒーで済ましている。


「もう、簡単に用意してあげるから食べてね。お風呂先に入っておいて」

「いつも悪い」

「良いけど」


俺は着替えてから風呂に入りダイニングに行くとテーブルの上に消化の良さそうな夕飯が並べられていた。

「これ食べてから寝てね。ごめん私もう眠い」

「いいよ」


俺は食べ終わってから、食器をキッチンに下げて星世のいるベッドに入った。

遅くまで仕事をすると結構ストレスが溜まる。彼女にちょっと手を伸ばした。

「ふふっ、仕方ないな~♡。きちんと付けてね」

「分かっている」


俺は、翌日もいつもの時間に出勤した。当たり前のことだ。


はーぁ、なんか一郎さん忙しすぎるな。もっとゆっくりして欲しいのに。

六年になると医局にいる事が多くなる。来年卒業したらここで医師免許試験のある翌年二月までは、ここに居させて貰わないといけない。仕方ないよな。


「ねえ、最近如月さん、なんか疲れているみたいね」

「旦那様が仕事忙しいみたいよ」

「えっ、如月さん結婚しているの」

「声小さくして。ほら左手の薬指の指輪見れば分かるじゃない」

「あっ、本当だ。でもあんなに綺麗な人と結婚する事が出来る男の人ってどんな人なんだろう」

「さあね」


まったく、聞こえているわよ。好きに言って。まあいいわ。一郎さんは素敵な人だから。

今週末の土日は休めると言っていたから思い切り甘えようかな。




そして、翌年のGW過ぎ俺と素世は日本に帰国した。


 久々に戻った母校は、やはり思いがある。三年次で渡米したけど向こうの活動を認めて貰い四年卒業には入れて貰えた。神田教授のおかげだ。


「神田教授、お久しぶりです。只今戻りました」

「おう、立花君か。忙しい所無理なお願いをして申し訳ない」

「とんでもないです。今の俺が有るのは神田教授のおかげです。ありがとうございます」

「そう言ってくれると私も嬉しいよ。早速だが今回の公演の予定を話していいかね」

「お願いします」



東都大学では大学側の配慮で大講堂で行われた。千人以上を収容できるスペースはほぼ満席で埋まり休憩を入れての三時間の公演は好評のうちに終えた。


 移動を考慮し、中二日おいて京帝大学で行った講演も大好評のうちに終え、日頃知らない偉い肩書を持つ方々から挨拶を受けた。




「隼人お疲れ様」

「ちょっと疲れた。公演はそうでもないけど、知らない立派な肩書を持つ人達からの挨拶は流石に疲れたよ。でもあれで神田教授の立場も良くなるみたいだし良かったけどね」

「ふふっ、隼人はそういうの苦手だからね。実務派一辺倒だから」

「いや、俺は一理論物理学者さ。好きな研究が出来ればいいよ。それがいずれ人の役に立つと思うから」

「さすが、私の旦那様ね。大好きよ隼人」


 それから俺達は二泊三日の京都旅行を行い、如月家に行った。


―――――


済みません今回だけでは終わらなくなってしまいました。次回に続きます。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると 投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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